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13.【幕間】大人の時間 side:エレン


 ベッドの上に座りながら酒を煽る。

 グラスに入った氷が音を立てて揺れた。


「飲みすぎですよ。エレンさん」


 俺の背後から程よく筋肉が付いた褐色の肌をした腕が通り過ぎる。そっと手に持っていたグラスを取られて行く。

 耳たぶを甘噛みしてくる存在の頭を優しく撫でる。


「カイ、今日ぐらい飲ませてくれよ」


「だめですよ。明日の業務に関わるので」


 そう言って背中に感じていた熱が離れて行く。ベッドが軋む音がすると俺の横を上半身を晒したカイが通り過ぎて行く。

 丸い耳は可愛わしいのに、脱いだら鍛え上げられた筋肉は彫刻のように美しい。

 背中にある大きな傷すらも作品の一部のようだった。

 人にはだめだという癖に、俺が空けたグラスで残りの酒を全て飲む。絶対に飲ませたくないのだろう。


「失敗したなぁ」


「ナティスの件ですか?」


 俺は背中を壁に付ける。先ほどまであった熱とは違い、離れたくなるような冷たさだった。


「ゼノにも可哀想なことをした」


 ナティスは入団する時からずっと男の獣人が無理だと言っていた。もちろんトラウマの話も聞いていた。

 だが、騎士団に入ったからには一人の騎士として苦手でもなんでもやってもらわなくてならない。

 獣人とバディは必須条件なのだから。

 勝ち気で突っ走ってしまうナティスを冷静に見守り、時には助けてくれる存在としてゼノを側に置いた。過去のトラウマとなっている獣人の特徴にも似ていたからだ。

 しかし、全くと言ってもいいほど仲が悪かった。そして敢えてバディがいなくなった獣人のところへ行かせ、何が大事なのか体感して欲しかった。

 まさかそこにセオドアが噛み付いて来るとは思わなかった。

 セオドアのお陰でいい感じのバディになりつつあったのにまさかの遠征部隊。


「あー、タバコ吸いたい。もー、今、猛烈に吸いたい。吸わなきゃ禿げそう」


「だめですよ。禁煙中じゃないですか」


「禁煙やめたい」


「だめですって。フルーツ何か持ってきますから」


 カイの足音が遠ざかっていく。俺はズルズルとベッドに吸い込まれるように倒れて行った。


「どうすっかな」


 遠征部隊がまさかお腹が空いたという理由で真っ先に食堂へ行くとは思わなかった。完全に誤算だ。

 リンネルとナティスはゆっくり会わせたかった。


「カイー!まだかー!俺、タバコ吸っちゃうぞー!あー、もー無理だー」


 1人で悶々と考えているのが嫌でカイに早く帰って来て欲しかった。足早に近づく音が聞こえる。

 カイが持ってきた皿の中には沢山のフルーツが盛られていた。


「はい、どうぞ」


 上体を起こし、フルーツを手に取ろうとするが皿が逃げていく。

 代わりに口元に持ってこられた苺を一口で食べる。口内に広がる甘酸っぱい果汁はあっという間になくなってしまった。


「そういえばシド、怒ってただろ。セオドアを独房に入れたから」


「ええ、とても怒ってましたよ。セオドアに」


「躾だなんだ言ってるからあーなったんだよ。ナティスはいい八つ当たりだ」


「あいつにはいい薬ですよ。ゼノを殴った時、自分のことのように泣きそうでしたよ」


 カイが再び苺を持ってくるもんだから指を噛んでやると、その指を愛おしそうに舐める。


「それにその後、セオドアに会いに行ったらしいですよ」


「はは、あいつらしいな。きっとまた八つ当たりされてるぞ。まあ、それもそろそろ終わるだろうけど」


 すでに切れている丸いパイナップルを見つけ、俺はそれを口に含む。溢れた汁をカイに舐め取られる。


「んっ、やめろっ」


「明日、きっとゼノと2人で来ますよ」


「……ああ、来るだろうな」


 あの2人は今頃、何を話しているのだろうか。少しでもお互いを尊重し合えていたらそれでいい。


「リンネル達へはどうします?騎士団のほぼ全員に聞かれていますよ」


「まあ、なんとかなるだろ」


 俺には考えがあった。ナティスはきっと潔く引き受けるだろう。


「なら心配ないですね」


 カイがフルーツが入っている皿をテーブルに置いて俺をベッドに押し倒す。


「俺、まだ食べたいんだけど」


「私も食べ足りないんで」


「ギフトはもういらないからな」


 カイが笑って俺にキスをする。ギフトは流れて来なかった。獣人は渡すギフトの量を調節できる。

 人間もも貰いすぎると毒になるからだ。ギフトが出現してから他の獣人と鍛錬で学んでいく。


「私のこと、まだ食べてくれますか?」


 褐色の指が下へと下がっていく。


「食べてやらんでもない」


 カイの耳が前を向く。


「そうですか」


 嬉しそうに八重歯を見せると俺の頬にキスを落とした。


 

 



 

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