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6.ともだち?

 お、おさまった……。


 地鳴りが響き、しばらく踏ん張っていた俺は、そうひとりごちた後で再び階段を上り出した。


 この地下遺跡の出口がどこにあるかわからない以上、上に続いていそうな道を目当てに来たが。


 今のような歩みを揺らす地震がダンジョンでは連発している。

 崩落を想像するごとに俺は寿命が縮むような思いだった。


 道を探すのも勘。

 今のところは、初手で感じたような迷いから来る心細さや、不安といった気持ちは落ち着いている。


 アテは、外れていない?

 これも英雄の資質とやらに由来する、俺なりの隠れた才能だと信じたい。


 だが出口は一向に視えないし。

 攫われた生徒もどこにいるのやら。


 運はあくまで自分が助かるためだけのもの。

 そして、それもまだ機能するほど完全ではないようだ。


 まあ開花した才能を使えば使うなりに困るのだけど。

 あの女神の策が着々と進んでいるなんて、遭難中に実感するなんて不快どころじゃない。


「……気のせい……」


 じゃ――ない!


 突然、魔物とは別の声が聞こえた。

 明らかに人間の声。


 反響してどこからの声かはっきりしないが、大まかな予想ならできる。


 声は階段の上から聞こえた。

 俺は急いで石段を駆け上った。


 上層、下層とそれぞれに通じる階段が合流する暗い広間。

 その中央に、羽毛を生やした太った魔物が寄り固まっていた。


 なんだアレ!?


「なんだアレ!?」


 気が思わず声にも出てしまう異様な光景。


 俺の声を聞いた、そんな魔物の群れがこっちに来た。


 階段を上がるのに苦戦したせいで、笑った膝に逃げらそうな力は入らない。

 絶対絶命。


「て、てんこうせい……か」


 諦めうずくまっていた俺。

 そんな俺を案じるように声をかけたのは、攫われた生徒の一人、ミチルその人だった。


「な……なんで、転校生、が」

「それはこっちのセリフ……いや言いたいことはほかにも、いっぱいできちゃったけどさ!」


 まず、なんだその恰好!?


「実は、グリフィンに……」


 順を追ったミチルの説明がはじまった。


 女神アンナチュラルに攫われたミチル達は、俺とおなじように出口を目指してダンジョンをさ迷った。


 その足音をグリフィンに聞かれ、あとは一人、また一人と。


 グリフィンの巣で再度目覚めた。

 すぐ近くには眠った雛が。


 腹を空かせた雛の餌にならないよう雛が眠っている隙に、卵の黄身と白身を頭からかぶり山積みになった羽毛、糞を張りつけ臭いを誤魔化しここまで脱出した。


「忘れかけていたのにッ!」


 糞と改めて言われ気分を害す生徒達。

 心中お察しします。


 誰も目立った外傷はない。


「そっちは……」

「それが、みんながいなくなった後」


 俺は状況を端的に話した。

 救出の準備を教師が整えていると知った生徒は安堵のあまり声を張った。


「出口、は……わかる」

「ホント!?」

「見つけた後、で……グリフィンに、攫われたから」


 つまり、あの魔物は捕らえた者をダンジョンから逃がさないよう、周回していたということなのか?


 あれ。


「『巣にあった材料で誤魔化した』って、言ったよね」


 雛の目はそれで騙せても。


「親グリフィンの方は、雛が逃げたと追ってくるのではありませんか」

「「「…………」」」


 なんだ、その不安を煽る沈黙は。


「私達からも、その指摘はしたんです。でも」

「ミチルさんは頑なに答えようとしなくて」


 はあ。


「と、みなさんこう申しておりますがミチルさんの見解は?」


 言う通り、ミチルは頑なに答えなかった。

 もしくは、聞こえないのか。


 グリフィンの足音がうるさいせいで。


「びゅふふふふふ……!」

「みんなにげろぉおおお!!!!」


 グリフィンの姿に俺は、前歯を出して苦し紛れに笑うミチルも含め、広間の隅近く、倒壊した柱どうしが重なってできた小穴に生徒を逃げ込ませた。


 グリフィンは巨体で入れない。

 かき出そうと爪やくちばしを突っ込んできた。


 恐怖に叫ぶ生徒、雛と完全に勘違いしたグリフィンの鳴く声とはまた別に。

 

「地震!? 一体なんなんだよ!」

「ここにはたくさんの種類のモンスターが棲息しあちこちに巣をつくっているんだ、そのせいで地下全体が不安定で崩れたりし地震が連発している!」

「わかるのか!」


 答えた男子生徒は気配探知のスキル持ちだった。

 その彼がグリフィンの前足に捕まって出された。


「もうおしまいだ!!」

「私達はここで、あの魔物に殺される……!」


 いや。


 今の話で魔物を罠に嵌める案を思いついた。


「みんな……ああくそっ」


 パニックに陥っている生徒に説明している間はない。


 穴からグリフィンが離れた、今を逃したら!


 一番小さく軽い。

 俺はミチルをお姫様抱っこして穴を脱した。


「~~~~~~! ~~~ッ~~~!!」


 沸騰したやかんみたいな顔と悲鳴でますますパニックになったミチル。 

 その有様を、逃げる男子生徒を追いかけ回していたグリフィンに見せ付けた。


「ほら、俺はここだ! 『雛泥棒』だぞぉお~」


 暴れるミチルを見てか。

 挑発に乗ったように瞳孔が開いたグリフィンは、生徒達を無視して込んできた。


 翼は、畳んでいる。

 来た時もそうだが、ここは高度が足らないと頭でわかっているんだ!


 俺は、自分が通ってきたトンネルに魔物を誘い出した。


 地震。


「天井に石を投げろ!」


 ミチルは命じられるまま。

 俺が拾った石を投げた。


 石が当たって不安定だった地盤が没落。


 グリフィンを生き埋めにした。


○○○


 軽症で大事なく部屋に戻る予定だったが。

 保健室で手当を受けた後、俺は学長室に呼び出された。


 後ろの窓から夕刻の陽を受けた削銘から、今回のあらましについて聞かされた。


「と、いうことだった」


 俺がこれ以上、自分たちに関わらないようにするため削銘の留守を狙った一部の教師、彼らは女神と密約を交わし俺を引き渡そうとした。


 彼らは転生者不在で滅びた異世界の生き残り。

 削銘が庇護下に置いたが、裏切り者と創造主たる女神に脅迫され、学内に強力なダンジョンを作るなど工作もしていたらしい。


 もちろん、俺の身柄について記した締結書は偽造だった。


 結局、全員、最低限の退職金を渡し追い出された。


「開陽君が気に病むことじゃない。今回は違う世界の事情が絡んで起きた出来事だから」


 罪悪感に似た感情を浮かばせた俺に、削銘はそう諭した。


「異世界人はこれからも君の前に現れるかもしれないが、君は巻き込まれた被害者だという事実を、忘れないでほしい。むしろ」


 機転をきかせ、よくグリフィンを倒したと褒めてくれた。


 地震を教えた生徒、自分と一緒に囮になったミチル。


「そして、君もね、アイス」

「は、はい……!」


 あの時。

 グリフィンの足に傷を負わせていたから捕まった生徒は逃げられたとアイスにまで感謝した。


「なのに、学園の生徒全員から、開陽を退園にする声が上がっていてね」


 心苦しく伝えた削銘。

 俺は、思ったよりショックは受けていない。


 どれだけの励ましを受けても、励ましは励まし。

 俺が元凶という事実は覆らない。


「生徒の命を主導で守る立場と今回の件から、いろいろ学び直されたよ」


 削銘は、俺を学内にある自分の邸宅で一対一で保護する方針を固めた。

 学内の守りが弱くなるわけではないと、声を挙げた生徒達を説得するのに苦労したのだとか。


 周りの人間も危険な目に遭ったから、一人になるのは俺も得策だと思った。


 引きこもりに戻るわけじゃないんだし。


「だが一人、どうしても決定に納得していない生徒がいて、手を焼いているんだ」

「トラクカイヒ!!」


 ミチルが飛び込んできた。


「ほら、ね」

「私も……、……!」

「ボクから説明するよ」


 大事なところで詰まるなら、なんかしら考えて乱入してこいよ。


 ミチルも、攫われた時、自分の英雄の資質を使い過ぎて魔物の巣から逃げ危機を脱し、かえってまた生徒達から避けられてしまった。


 いい加減、あそこにはいたくない。


「神直々の指導を受けるチャンスを逃したくなかった、とのことらしい」

「でも、俺はダンジョンで」


 謝ろうとする俺に指を差し黙られた。


「お、おたがい……さま」

「おたがい……ってなんの?」

「ミチルぅがー、逃げようとぉ……決意した、理由……あなたが助けに来る未来を、予知したからぁああ」


 自分の護衛騎士にバラされたミチルが悶絶。


「誠心誠意、巻き込んだ、こと、お前が心から謝るまで……と、特別に側で待っておいて……やる」


 強引に話を戻してきやがった。


 ここまでの話に乙女になったアイスが照れて顔を隠した。


「しばらく、私に……合わせろ……トラク」


 とまあ。こうして、脱引きこもり後。

 俺に友達と呼んでいいかもしれない相手ができたのでした。

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