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33.ラブレターをもらった

 授業中に体調不良を訴えていたミチルは、付き添い人に俺を選んだ。

 あまりに鬼気迫った剣幕は腹の痛みによるものだ。なにか裏がある、企んでいるとは俺は深くは疑わなかった。


「おいちょっと、トイレに行くんじゃなかったのか!?」


 俺を食堂に連れ込んだミチル。

 そんなの最初から痛くなかったと押さえた腹から手を下ろした。


 顔を真っ赤にさせたのも演技だと、いつもの不健康そうな青い顔色に戻したミチルに俺は安心のあまり言った。


「てっきりまた研究とか言ってその辺に生えた雑草でも拾い食いしたのかと」

「犬か! お、お前に……見せたいもの、が……ある。受け取れ」


 そのまるで潜ませるようにポケットに入れ持ち歩く白い封筒をミチルに手渡させた俺。


 一見したところ、なんの変哲のない封筒だと貰った相手は思うはずだ。事実、最初は俺もそうだった。


 ところが白い封筒。

 これの裏面に偶然、ハートの印で封をされているのを俺は発見してしまった。


「……後でじっくり読むよ」

「いま、ここで読んで……率直な感想を聴かせてほしいッ。もどかしくて、もう我慢の限界なんだ!」


 曲がりなりにもおなじ学び舎で過ごしたからか。

 顔を赤らめ、詰めてきたミチルが、先ほどのような演技をしていないとわかってしまった。


 だが平静を取り繕うとも、このシチュエーションに、動かぬ証拠の手紙。


 これが、このハートマークに封じられた手紙が世に言うラブレターか!?

 叫びたくなる衝動に、腹を殴って俺は失いつつあった自我を肉体に繋ぎ止めた。


 ミチルに責められ冷静さを欠けば一巻の終わり。

 俺は押し負けて手紙を読む決意をした。


 告白と今だけは思うな。


 ミチルは感情を表には出さず、人とのコミュニケーションも性格柄得意ではなかった。

 これは人助け、抱え込んだ気持ちから友達を救うんだ!


 手紙の中身。葉書くらいの大きさの一枚の手紙が入っていた。


「朝起きたら、枕元に、これが置かれていた」


 手紙には日時と謎の数列が書かれていた。

 時間は、ミチルが俺を教室から連れ出したのと同時刻。


 裏面には『この座標に開陽を誘い出してほしい。あとは自分が彼を殺す』とあった。


 俺は即座にミチルに問うことにした。


「キヨに頼まれたのか」

「そこは、女神を疑ってやれ。キヨを、なんだと思ってる。ま……差出人はどちらでも、ないがな」


 剃刀(カミソリ)のようなツッコミを入れたミチルは一転し澄ました顔に。


 騙され、期待を裏切られた俺をなぜ神妙な面持ちで見てくるのかはさておいて……!

 感情が死にながらも、俺はミチルに尋ねた。


「だれがこんな、ふざけたもん……」

「この、字……お前、にはないか。見憶え」

「え? ……こ、これはッ!?」


 読み返し、俺はミチルとおなじように確信した。


 すると突然、手紙が光り、俺達の足許は食堂の地面からさらわれた。


「……今の、転移魔法?」


 眩い光から目を開けたミチル。


「どこだ、ここ」

「まさか!」


 一面の更地。中央の俺達を囲んでいた木々。


 折れて崩れた塔を、俺は見つけた。


 かつてユノが削銘を誘拐した時にやってきた即席ダンジョンだった。


「削銘を助けた直後に消滅したはず!」

「手紙のインクには魔力が籠もっていた。それを使って、僕の記憶を紙に封じていたんだよ。日時になったら手紙を持つ人間を転移できるように」


 存在するはずのない景色に。


 異世界にいるはずの親友が立っていた。


「久しぶりだね、それとも、そんなにかな。二人とも」


 感動の再会、とはいかないような雰囲気だった。


 異世界の武装か、鎧を身に纏って俺達の前に現れた久志に俺達は確かめた。


「久志兄ちゃん」

「お前が、この手紙を私に? ……女神に命じられて」


 久志の背後には少数部隊が、久志と同様に完全武装で控えていた。


「察しがいいとは違う。僕の前に開陽を殺そうと異世界から刺客でも来たのかな?」

「やっぱり、久志兄ちゃんだ……!」


 俺の顔色の変化の一つで起きた状況を把握する久志に、俺は本物と確信した。


 目頭が自然と熱くなった俺に、久志は首を振った。


「でも惜しい。手紙を送ったことと女神は関係ない」

「ならば、どういうつもりで」

「脅されると君はどういう経緯でも、必ず開陽に渡るように動くからね。例えば僕の筆跡を知っている学園長は開陽に確かめようとする」

「ミチルが、だれにも相談しない可能性は」


 口を挟んだ俺に、久志は一瞬だけ驚いた素振りを見せた。


 その目を両方とも細めたと思えば、口を大きく開けて笑った。

 ひとしきり笑うと満足するように、目尻を掻いて久志は俺達に言った。


「君らの仲を、近くで見ていた僕が過小評価するわけがないじゃないか。でもまさか、本人に、直にそれもこっそり見せるとはね」

「このマークは逆さまになると、誤解する輩と、鬼が、いるもんでね……」


 ミチルが手紙を俺に渡した時、封筒の口は俺の方を向いてハートマークだった。


 久志に封筒の印を見せ付けた時は、ミチルは開け口を上に向けていた。


「桃は異世界の王国の名産品でね。王国の紋章にも使われるくらい神聖な食べ物なんだ」


 ミチルは久志が言ったその可能性に気付いていた。


 アイスは実の妹であっても裏切り者には容赦しない。だから連れてこないように嘘を図った。

 キヨが知れば確実に勘違いされていた。誤解すればまず命はない。そして転移魔法が教室で発動すればそれこそ何人もの生徒が巻き添えに。


 最も俺が気を付けるべきだった。

 最善の状況を作り出すには、勘違いはどうあっても避けられなかった。ラブレターを貰った、そう俺に思われるミチルがどう思うか。


 自分の感情を表に出しづらいとずっと侮っていたミチルが、そんな綱渡りをひとりでしているとも知らずに、俺だけが浮かれて!


「ははぁなるほど。一人で勘違いするだけじゃなく、そのせいで人が傷付いたかもしれないのが恥ずかしいわけだ」


 久志とミチルに見られた俺は首を振った。


「普通の女の子と侮ったわね、最後まで。これは完全にあなたが悪い」


 ウケモチが背後から手を置いたのは俺の肩だったが、顔を赤らめたミチル。


「わ、私ははじめから、嘘なんか言ってない、いや……それはともかく……なんで」

「食堂に来たのは二人の方で、こっちは転移に巻き込まれただけよ?」


 転移魔法はそれほど、規模は広くなかった。


「ぜったい近くに隠れて見ていたな」


 俺達の様子を。


 久志の側らで臨時騎士が身構えた。

 ウケモチが竜に変身できると知っての行動。リースもすっかり異世界の装備に身を包み、剣を抜くのに一切の躊躇いがなかった。


 アイス、それに削銘が見れば悲しむだろうが、俺は安堵に心が軽くなる思いだった。


 久志を護る騎士であろうとする使命は、変わっていなかった。


「女神が関わってないなら私は一切口出ししない。けど今さら彼になんの用?」


 久志は腰に提げた二本の直剣。

 これの一本を鞘から抜くと俺に寄越した。


虎孔開陽(とらくかいひ)。君に決闘を申し込む」

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