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30.教え給へ

「まず。彼女の持っていた笛は、異世界に転生させるトラックを召喚するアイテムのようらしい。女神が渡したんだろう」


 鑑定を終えたホイッスルを削銘は俺に託した。


 どうするかは俺の判断に任せると。確かにそれが俺にとっては一番安全に思えた。

 

 しかし、だ。轢死させるために道具をこしらえる。

 失敗に執着するあいつの頭の方にこそ本格的な治療が必要ではないか。


 これまで観測されてこなかった結界に、系統も魔法とは言い難い敵に襲われたこともあって精密に検査された。


 俺の身体はどこも異常はなかった。


 どこか異常はないかと問われ、強いて言うならと、医務室を後にしようとした俺は寝付きがよくなりたいと言ってホムンクルスから薬を貰った。


 削銘も愛用して快眠効果がある。

 魔法を使わないから開陽にも安心で、胃腸にも優しいまさに優れものと、お稚児さんのようなホムンクルスの胸を張る姿はたいへん微笑ましたかった。


 管理職はストレスが溜まりやすい。

 俺みたいな人間が毎度騒ぎを起こすのだから無理なかった。


「もっとも、今の悩みの種は新しい女神の刺客になるんだろうな」


 愛くるしいホムンクルス達も難儀していた。


 目覚めないメテオラを現状、治療する手立てはなかった。

 治すんじゃなく、直すが正解。


 あの身体でわかったことは、一部は魔力で動いているから、見張りの騎士を医務室に待機させる必要があるとそれだけ。


 学園の関係者に魔法と科学の両方に精通している者がおり、一夜明けて協力を要請すると連絡したらしい。


 メテオラ。あの機械仕掛けの勇者。彼女がどうなるか決まっているようで、なにも決まらなかった。


 そればかりが気になり、俺は廊下で立ち止まったわけではなかった。


 周囲に漂う甘い匂い、ゆったりとしたBGM。

 すべて俺の部屋からだった。


 ホムンクルス達の話によると、ユノと先にキヨ達は部屋に戻った。


 おおかたキヨやアイスが気を利かせ襲われた俺のために、アロマや落ち着く音楽をかけたのだろう。


 自分の不幸がきっかけなのは正直複雑だが、あの犬猿な仲がほぐれ、よくなったのなら嬉しかった。


「お義兄さま、この人達を止めて!?」


 俺が扉を開けるなりユノの悲痛な叫び。

 何本もの蝋燭を立てた魔法陣の中心で下着姿、目隠しに正座させられていた。


 東洋の踊り子のような恰好のキヨ。サンバガールにしか見えないアイスが奇怪なステップを踏みながら陣をぐるぐる廻っていた。

 二人とも職人みたいな険しい顔だった。


「世界観がわからない」

「キヨの考案で、も、元妹騎士に邪神を憑依させる儀式を開いた……」


 ミチルがカメラを回しながら説明した。

 その邪神とやらはミチルの言うところの元妹騎士、つまりユノの口を借り、洞窟で開陽となにがあったかを打ち明ける。


「こ、こ、こんな珍しい儀式、記録しておかないともったいない、だろ」


 ミチルは涎を拭った。


 最初はアイスの着想で取り調べを行ったが、口を割らなくなった。


「ああだから、お前さんの護衛騎士はハゲヅラを被って俺の机でカツ丼を貪っているのか」

「これはぁあ、長くなりそうだったんでっぇ……ウケモチにお願いして食堂で作ってもらった夜食」

「ちなみに、あぁあ、あれで……三杯目。ふひ」


 ほくそ笑んだミチル。

 

 意外に大食漢なんだな!


「キョエェエエエエエエ!!!!」

「うおびっくりしたぁあ!?」


 ユノが突然、天井に向かって吼えた。


「キヨさん、やりました!」

「邪神の降臨……ついに、キヨ達の祈りが届いた……!」


 手を繋ぎ感激するキヨ、アイス。


「さあ邪神よ。薄暗い洞窟で開陽様がいかにその娘に喰われたか、その全容を細かく、便箋二百枚の程度まで詳細に告白し給え!」

「あの子の手に、豆だこの痕がいくつもありました。豆だ婚、というやつを開陽さんは執り行ったのか」



 俺に関してユノはなにもしていなかった。

 あと目が泳ぎまくっているアイスの発言は意味がてんでわからなかった。


『ソ、ソ……ソ』


 これが邪神の意思とやらか。


 ユノの指が、震えながらキヨを示した。


「キヨ? 俺かユノじゃなく」

「キヨさん?」

「キヨは、開陽様とはなにも……」


 ユノの口を借りて喋った邪神。


『そこな鬼の娘は――夫の健康状態を知るという名目で、洗濯物から盗んだ少年の脱ぎたてのパンツを、こっそり履いては、その後で洗っている』


 がくりと項垂れたユノ。


「俺のパンツを」

「キヨさん」

「んがッ!? 知りたいのはそういうのではなく!」


 折れ曲がったユノの膝が起こり。

 今度はアイスが指差された。


『そこなドジの娘は――貰った耳飾りを不注意で失くすのを恐れるあまり、金庫を買ったが、昨夜、暗証番号を忘れたことを打ち明けようか悩んでいる』


「き、き、金庫を買ってすぐ、な……中身、出せなくなった」

「ドォジィ」

「はうッ!? ち、ちがうんです! 忘れたというか! お、おぉおもいだせなく、なっただけです!!」

「それを世間では、忘れたっていうんだよアイスさん」


 つい前の呼び方に戻ってしまった。


「キヨさん、どうなってるの……ッ! 知りたかったのは開陽さんについてで、私達の秘密じゃ!!」

「はっ……しまった! これは『召喚者の秘密を告知する邪神を憑依させる儀式』だった!!」


 一番隠したかった秘密を暴露された二人は肩を寄せ、身を互いに受け止め合って膝から崩れ落ちた。


 ぼろぼろと大粒の涙に相手を濡らし合った。


「開陽様ぁ……」

「開陽、さん」


「ほーそうかそうか。そんな顔で俺を見て。秘密を打ち明けるのも、案外悪くないなー。じゃあ」

「悪いのは私をそそのかしたこの鬼です!」

「妹を差し出すなんて、ひどい姉もいると思いませんか!? 思いますよね!」


 二人揃ってなにを、そんなに怯えることが。


 俺は、こんなにも笑顔で言い渡したのに。


 キヨを洗濯室から永久に出入り禁止。

 アイスとは後日、金庫屋に開かなくなった金庫を持って行った。

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