24.女神の使者がやってきて
部屋で待機していた俺は、目覚まし時計が何時を差しているか確認した。
学園長室で話し合いが行われ、もう三時間。
「かなり、かかってるな」
自分の代理で出席したアイスの身を案じた。
進行役の削銘と俺の代理のアイス、削銘の補佐にアイスの妹で護衛騎士の次女が話し合いに参加、終わったら削銘が呼びに戻り、俺達生徒は部屋から出られることになっていた。
護衛騎士の次女は、勇者候補の護衛にはつかず削銘の助手として活動。最も交渉に長けていた。
そうアイスから聞かされていても、心配は拭えなかった。
連中のような輩が直接乗り込んでくるのは初と、ミチル達も難色を示していた。
異世界から女神の神職が、こちらの世界の政府高官と学園に乗り込んできたせいで、授業中いきなり臨時休校になった。
勇者の素質を持つ子ども達を彼らに遭わせてはならないと削銘の配慮だ。
護衛騎士にも一斉に強い命令が下され、生徒達は部屋から出られなくなった。
特に俺には、アイスからの具申もあって、削銘は不用意に扉に近付く行為すら注意した。
連中の目的は察しがついた。
騎士の中で、俺を宥めたアイスだけが、会議に強制参加になった。
「遅いですよ。今頃平和的話し合いで開陽様を転生させようとしても」
面倒ごとはアイスに押しつけることが叶い、俺の世話を何人にも邪魔されないキヨは声色を高くそう言いつつ、俺の服にアイロンをかけた。
「ありがとうキヨ。でも」
キヨの言い分はもっとも、だがどうしても疑問に思った。
実力行使から、女神がやり方を変えた心意がわからなかった。
いきなり押しかけてはきたのだし、上から目線な態度は変わっていないが。
「なんでしょう」
「外が騒がしいな……?」
たくさんの足音、それを制止する慌てた声。
アイロンのコンセントを抜いて、扉を開け様子を窺おうとしたキヨは、手を引かれるまま外へと引っ張り出された。
「魔族だ! 殺せ!」
俺の意識は、外に飛び出した俺の身体に引っ張られた。
髪の毛が逆立ったような。
神衣を着た異世界の神官が、包囲したキヨに杖を突き付け、魔法を放った。
そして、魔力の結晶ともいえる光の塊は、キヨを庇った俺に命中した。
「開陽さん!」
アイスの悲鳴が響いた。
「おお、この御方、この御方こそ……!」
神官が感嘆を上げるのが聞こえ、俺の朦朧と遠のく目は開いた。
「あなた達、開陽さんになんてこと!」
「剣を収められよ騎士殿。あれは浄化魔法、魔族以外には益も害もない」
高位な立場を誇示するように清廉のローブを着た男。あれが神官達の長か?
「さあ、皆の者、かの御主、女神様に祈りを」
無傷の俺の前に、神官達は頭を垂れた。
○○○
豪奢な風呂に浸かり妖精たちの介抱を受ける女神、いや。
糞駄女神アンナチュラル。
「もっと別の場所に転移できなかったのか」
「ここは、女神の夢の世界よ。お前のじゃなくてね。あらぁ、それとも、いっしょに入るって誘われたかったの~?」
からかいには付き合うつもりはなかった。
「冗談でも、そういうのは言うな」
「……本気にしちゃって、ダっサ~い。異世界の高官にヨイショされたのを真に受けて。最奥に高貴で最高にプリティースーパーな女神は、自分を癒す下僕としか入らないに決まってんじゃん」
「こんなやつを崇めて、なんのご利益があるんだか」
「下にいる子たちは自分が創ったんだから、敬われて当然」
内心ではその傲慢さが嫌われていた。
異世界の神官は、女神の意志とは関係なく俺を頼ってきた。
俺の最初のこの疑問に答えた削銘によれば、勇者の資質が高まることで、二つの世界の隔たりが曖昧になってきているから、俺のいる側に渡れた。
それで俺は、アイスと日曜に現れたリザードマンのことを思い出した。
削銘に協力していた政府も、異世界の問題が介入するのを不安に感じているらしくて。自分達に優位な交渉を進めるべく、異世界同士で連携すべきと揺さぶりまでかけられていた。
「自分達はみんな、お前のわがままに振り回されている。正直言って迷惑だ」
「キヨに言われたみたいにボコボコにしないってことは、異世界のために力を使ってくれる気になったのか」
湯舟で足を組み替えたアンナチュラル。
実体を伴わない、伴いたくてもできない精神世界だと、身も心も、隠したい本心を剥き出して動いてしまう。
ユノの、『勇者の資格を持った人間はひとり占めなどせず転生させ世界を救わせるべき』という言葉を忘れたわけではなかった。
「人間って本当に不思議、組織のしがらみとか犠牲は少なくしたいとか。創造主が違って
もおなじよね」
「他人様の世界に勝手に割り込んでこれる高潔な女神様に、俺達の気苦労はわからないさ」
嫌味でも言い返されるか、世話をする妖精でも適当に掴んで投げつけられるかと思った。
これは……。
「気を付けた方がいい。連中は、お前を勇者にしたいと勧誘しに来た宗教ってこと、ゆめ」
「女神様こそどうしたのやら、珍しく神託か」
「自分が選んだ異世界の勇者でもない、私に縋って生きている連中がやったことを、ぜんぶ女神のせいにしているのが癪に障る」
苦笑した俺に女神は断言した。
「『それだけ』よ」




