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23.トカゲとネックレス

「またのご来店をお待ちしております」


 強化製と思わせるくらい頑丈な見た目に、取っ手は黄金の扉を、引き取る客から開けた宝石店の女主人は客が見えなくなるまで頭を下げていた。


 一方、宝石店の斜め向かいの雑貨屋。扉もなければ、見送りときたら、耳に鼻にピアスの穴だらけ、世界旅行のパンフレットを流し読みして参考にしたようなコーデに、サングラスをかけたヤングガイの。


「あらっしゃ~」


 これが本当におなじ国の、おなじ地域、おなじ道での出来事か!?


「わがまま言ってすみませんでした……!」


 雑貨屋から出てくるなり、アイスは俺にカエルが池に飛び込むが如しのフォームで土下座。


 それを冷たい眼差しで、宝石店からマルチーズを抱いて出てきた御夫人はあしらうようにどけていった。


「こっちこそ大金持ちを気取って申し訳ございません!」


 だれが踏んだかもわからぬ地面に俺の方こそ、と土下座。


「いえいえ私が!」

「いやいや俺が!」


 アイスも俺も一歩たりとも謝罪を譲らなかった。

 

 土下座……てか、これじゃあ樹液を取り合うカブトムシとクワガタムシだ。


 まあ動きでは俺の勝ちだったがな。アイスのように鍛え抜かれた身体でなければ。


 財布に金も入ってないから、動きは軽やかだし。


 それでお金が足らず宝石店の女主人に蹴り出された俺に、アイスは雑貨店の店頭に売られていたイミテーションのネックレスをせがんだ。


 集まってきたので俺達は邪魔にならない隅で、場所を取らないよう立ってそれぞれ思うことを話した。


「そんなものしか買えなくてごめん。でも、本当によかったの?」

「開陽さんからの、はじめてプレゼントですもの」


 胸元の安物のおもちゃみたいな首飾りを、アイスは指で触れた。


「一生……大事にします。でもいつか本物もプレゼントしてください。いつか、女神に命を狙われなくなった時」


 はたからだと、我が儘に聞こえるだろう精いっぱいのお願いを、俺は快諾した。


「もちろん、守ってくれた恩返しもしたいから頑張らないと!」


 俺が魔力を失えば、アイスも騎士の使命を全うする。宝石なんて安いものだ。


 守られている今だから、とても手が出せない。そうだ! そうだよ。次は小型犬を抱いて入れば!


 あれが通行証になるかはまた調べるとして、俺はまたアイスを連れて街をぶらぶらしはじめた。


 すると、街で客寄せに声をかけられた。


「新製品の服の試着を新規様に無料で案内しておりまして、ぜひ寄ってってくだせぇ」


 客引きのすぐ後ろ、ファッション店は確かにあった。俺はブランドとかにとんと疎いが。トカゲのロゴとはまた珍しい。


 俺は、トカゲの着ぐるみをした独特な客引きを警戒した。ほかにも何人かいる、あの店のマスコットキャラクターか?

 近頃は喋るゆるキャラも普通にいると聞くし、声をかけてきた見た目で怪しむのはさすがに差別かも。


「飴舐めます?」

「わぁ、ありがとう。開陽さん、ちょっと見ていきましょうよ!」


 俺の手を引いてせがんできたアイスは、着ぐるみから貰った飴を舐めていた。


 マスコットキャラクターを前に小さい子みたいにはしゃいでいた。魔法で竜になれるし、爬虫類繋がりで親近感でも湧いたのか?


「ネックレスに合いそうな服を見てみたいです!」


 当然、俺の財布にそんな余裕がないのを知ったうえで言ってきた。

 子どもみたになっているからといって、入って試着していると、買いたいとぐずる事もないだろう。


 アイスの気分に応じて動く予定だったため、スケジュールは決めてこなかった。


 そうして、俺達がマスコットキャラクターの一団に引かれ店に入った。扉まで開けてくれたのでつい舞い上がったりなんかして。


 そして店に入った途端、俺達は即席ダンジョンに閉じ込められた。


「「なッ!?」」

『バカめ!』

『ほんとうにひっかかりやがったよ!』


 声帯から発したとは思えない声。


 トカゲの着ぐるみを脱いだ客引き、その中身はなんと、まだトカゲだった。黒い鱗につるんとした肌、頭の横に着いた赤い眼なんていかにも。


「リザードマン!?」

『まさかこんな見た目にだまされるとは、キシってやつもドジだなぁあ!』


 黒い鱗を持ったリザードマンの群れが、着ぐるみに油断したアイスを馬鹿にして笑った。


「こ、こんな卑怯なマネを、リザードマンがつかう、なんて……!」


 顔を真っ赤に腫らすアイスを庇った俺は連中を指した。


「開陽さん」

「そっちこそ、こんな汚い手段を使って勝って、それで満足か!」

「お、おれたちだって……! 女神の作戦に俺達だって乗っかるのは嫌だった!?」

「元の世界に戻りたきゃ、したがえって!」


 逆ギレするリザードマン。

 前にも魔物に襲われたこともあったが、これははじめての反応。


 この展開、俺達にとってはチャンスになるんじゃ。


 女神への不安を餌に逃がすよう俺は頼んだ。


「じゃあここは、おたがい被害者で、あいつの口車に乗るのは嫌だってことで」

『そうだな、出口は案内してやるからあとは……ってまてぃ!!』


 一旦は賛成したリザードマンだが、拒否された。


「なんだよ、女神にいいように使われるのはいやなんだろ?」

『女神に従いたくない奴が、なんで今度は勇者の口車に乗らなきゃならんのだ!』


 くそぅ、トカゲって頭よかったのか!?


『この先は一歩も』

「まだ出口の場所、聞いてないけど」


 やっぱり馬鹿かも。


『問答無用、グハァ!』


 俺達の会話、その先から拳が飛んできた。


「互いに丸腰なら、素手(ステゴロ)で負けることはありません」


 一度は顔面に拳を受け気絶したリザードマンが、すぐに立ち上がった。


『しぬかとおもった』

「どういう、確かにはいりました……!」


 ファイティングポーズから狼狽したアイスに。


『力で上位種に進化させてくれたことに関しては、女神に感謝しないと』

「その黒い鱗、まさか伸縮性があって防御に特化、衝撃を和らげるのか!」

『ご明察、数があるこちらが有利だってことさ』


 はじめから笑ったように裂けていたリザードマンが、さらに口許を邪悪に歪めた。


 あの糞女神に関しては、本当に最悪な推測ばかりが的中する!


「そ、そんなばか……くッ」

「アイスさん!?」


 腹を押さえたアイスがうずくまった。


「まさかさっきの飴が。毒まで仕込んでたのか!?」

『これまたおそれいる……あれにそんなのあったか?』

『あれは今朝、油断させるのに近所のスーパーで買ってきたし、やつらが遅いからおやつで食べたが、異常はなかったぞ』


 ちろちろ舌を出し入れし顔を見合わせるリザードマン達。なんかちょっとかわいいな。


『アメがない! だれだよ最後にぜんぶ食べたやつ!?』

「え、そんなの」


 一人しかいなかった。


「おなか、いたい……たべすぎた……!?」

『……今のうちに勇者を食い殺そう』

「ハァ!?」


 唐突なカニバリズム展開に激しく抵抗した。


 いくらなんでも、食べられて転生するなんて展開、フィクションでもやらない。


「最後に、大ドジをかましてしまいました……」


 飴の食べ過ぎで下した腹をアイスは押さえ、俺から姿を消した。


「転生者を守る護衛騎士で、ありながら。いっしょに喫茶店に行ったり、ネックレスを買ってもらい、おねだりなんかしたから。バチが当たったんですね」


 どっちだ!? アイスへのバチか。彼女を連れ回そうとした自分へのバチか。


 次々と泡を噴いて倒れたリザードマン。


「まる、ごし……じゃ」


 最後の一頭が、苦しそうに呟いた。


 白目を剥いて倒れたリザードマンに馬乗りになっていたアイス、妹達に見立てて貰った服は戦闘でドロドロ。


 伸び縮みする鱗が仇になった。呼吸器官は締め技に弱くなっていたらしい。


 魔力を込めたネックレスに絞殺された。


「大事にするって、開陽さんと、約束したのに」


 アイスの魔力に耐えきれず、ネックレスは壊れた。


○○○


「情けない。なんて無様なんでしょう」


 次の日。食堂で、キヨがアイスに女神の刺客に襲われた件を出し、護衛騎士の任を正式に自分に引き渡すよう、全員の前で要求をはじめた。


 認識阻害の札をいつの間にか落としていた俺に、みんなの目が無言の圧をかけてきた。


「まあいいです。あなたにはもはや関係ない話ですから。ささっ」


 騎士として、妻として、末永く護るとキヨは俺に誓った。


「キヨの言うの通り、アイスは君と比べると、ドジで、取り柄なんて」


 アイスの肩がびくっと震えた。


 そんな彼女を俺は、俺の背中に立たせて言った。


「開陽様、さっき、その女に取り柄はないって」

「君と比べて、……一つだけある。俺をあの性格が終わっている女神から護ること」

「ですから、護衛はこのキヨが!」

「キヨは俺の役に立つことが護衛以外にたくさんある。でも、アイスには一つしかない。一つくらい譲ってやれ」


 開いた口が塞がらなかったキヨ。


 まだ削銘の了解は得ていないが、キヨが護衛騎士を開陽に解任され、心底苦労していた面々は涙まで浮かべていた。


「じゃあ、背中は任せたよ……『アイス』?」

「――ッ、はい!」


 髪をかき上げたアイスの耳には、安物のネックレスの飾り部分がピアスになって付いていた。


 妹達に付き添ってくれたおかげで、手元が狂わずに修理できたみたいだ。


「似合ってるな」

「これでもう、失くしません」

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