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1.即席ダンジョン

 木の根っこに絡まって身動きが取れない。

 でも、引っかからなかったら穴の底にあるだろう地面に叩き付けられていた。


 下を見た俺は胸を撫で下ろした。


 クッション代わりに根が落ちる速度を徐々に弱め、根を崩しながら穴をゆっくり下りた。


 足場を壊したから、もはや引き返せない。


「……地下鉄?」


 線路に足が着いたし。プラットホームらしき地面の隆起もあった。


 だがなんというか。真っ暗で静かで。

 全体的にこう……(すた)れていた。


 でもなんか、来たことがあるような。


「ああそうだ!」


 ホームに上がって、駅名が見えてやっと気付いた。


 高校に通うのに使った施設からの最寄り駅じゃないか。


 となれば当然。

 

 地上に通じる出口までの道順は足が覚えていた。


 記憶力がいいとか、お世辞にも言えない。

 学生時代を忘れるような、ニート生活にいい思い出も悪い思い出もなかっただけ。


「俺、落とし穴に落ちたよな……? だいたい」


 ここ、本当にあの地下か?

 

 見知ったデパ地下なのは見れば記憶と合っているけど、どこもシャッターが閉まり明かりが失せている。


「……あった! 出口!」


 階段を発見。


 人が下ってきたから階段があるのがわかった。


 しかしこれが。どう見てもデパ地下で買い物とか、通勤とかの感じではなかった。


 ブロンド髪の若い女性。白い甲冑に碧のマントを羽織った。

 それが、全身鎧を纏った小隊を率いて登場した。


「いました、遭難者です!」 


 俺が強張っている間に、騎士達に一瞬で取り囲まれた。


 全員が剣を握り……まあ鎧姿だし。そこは敢えて目をつぶった。


 でも。

 全身血まみれ。ブロンド髪の女性騎士の剣に犬の首が突き刺さっているのは。


 さすがに怖すぎるだろ!?


「よかったぁあ。無事で」


 いや無事じゃない。確かに三秒前はそうだったかもしれないが。


 犬の頭ぶら下げた状態で、ほっとしたように笑われると余計背中が寒くなった。


 顔が見えるのはこの人だけで。残る全員は頭から足の先まで完全武装だし。


「ケガは……ないようですね。モンスターに襲われたとかは、ありませんか?」

「は、はい……。ってはい? モンスター?」


 俺が通学路に使っていた地下、モンスターとか湧く危険な場所だったの?


 高校入試のパンフレットにそんな紹介なかったけど。


「一見、現実世界のように見えるこの場所ですが。ここは、女神が魔法で創った即席の地下迷宮(ダンジョン)なんです」


 ダンジョン!?

 ダンジョンってあの……冒険者とか勇者がモンスターと戦う。


「異世界の女神から勇者の資質に目を付けられてしまった人が、定期的に迷い込んでくるんです」


 あの糞発光ビカビカ女神!

『ぜったい殺す』とか笑っていたのって、こういうことかよ。


 落とし穴で無事とわかった時、ホッとしちゃったのがくやしぃ!


「私達が安全な地上に着くまで護衛します。もう安心でッ……ふぎゃ!?」

「隊長……!?」


 ほかの騎士達から『隊長』と呼ばれたブロンド髪の騎士は、俺に握手しようと手を出してきて。


 自分のマントを踏んで転んだ。


「ああ鼻血が!」

「はやく止血を……!」

「ポケットティッシュ! 常備しているやつがあるだろう!」


 鼻を押さえて、うずくまる『隊長』。

 介抱する騎士達であっという間にそれも見えなくなった。


 兜の隙から聞こえた声に耳を澄ませば。


 隊長の部下と思しき連中も、全員女性らしかった。


 まあ大丈夫そうだし。なんか慣れているみたいだし。


 俺は別の出口を探るため、元来た道を引き返すことにした。

 動物の首を串刺しにした血まみれ姿に、笑顔で『守ってやる』と言われて、信用できるわけがない!


 地下中央には広場があって。噴水を突っ切ると街の反対側に出られた。


「なんだ。ダンジョンとか言って、ただの無人の地下じゃん」


 そういや。こうして無事に地上に出られるから気が失せていたけど。


 女神と別勢力みたいな、あの口ぶりをした騎士は、何者だったんだろう?


「……よく来たな。勇者よ」


 俺が越えようとした噴水の裏側、そこに。


 二足歩行の犬型モンスターが群れで固まっていた。


 なかでも。大理石の縁に腰を下ろす個体は一際に大きく。立てば天井に届きそう。


 あの女騎士が持っていた首はこの怪物達の一匹だったのか……。


「おいなにをグズグズしている! あの餓鬼を俺様の足許まで連れてこい!」


 陣取っていた首領と思しき一際大きなモンスターは吼えて、手下に命じ俺を捕らえさせた。


 騎士達とは全く違う荒々しさで首領の前に引き立てられた。

 凄まじい迫力。関節部に限るが武装し、刀身が錆びた巨大な鉈まで装備していた。


「あの女神には感謝しねえとな。捌くのもいいが、これが粋ってやつだぜ! てめぇらよく見てろ!」


 俺は必死に抵抗したけど。

 大鉈を顔に当てられながら、足を掴まれ、逆さのまま頭から丸のみにされた。


「親分の人間の踊り食いだ!」

「異世界の勇者を食べる貫禄、くぅぅぅ痺れます!!」

「俺様こそが、このダンジョンの支配者! 勇者なにするものぞ! 女神になど臆するものか!」

 

 とまあ、そんなことを嗤いながら盛り上がっていた気がする。


 胃袋の中にいても眩い光に目を焼かれた。


「隊長が〈コボルト=グレート〉を討伐された!」

「我々は残敵処理に当たるぞ! 犬一匹逃がすな!」


 真っ二つになった胸部から、真っ赤な俺が顔が出すと。

 さらに返り血を浴びたブロンドの女騎士が手を伸ばしていた。


 部下は手下のモンスター掃討の真っ最中。


「ご無事でなによりです」


 俺は今度こそ、差し出された手を掴んだ。


「申し遅れました。私、とある方の下で騎士の任を任されている……アイスと申します」

「あ、ええと。開陽です。虎孔開陽」


 名乗る女騎士、アイスに俺も名乗り返した。

 そばには、二つに斬り分かれた巨大な人型モンスター……だった肉塊。なにが起きたかわからないと言った様子で白目を剥いていた。


 俺が丸のみにされたとわかって、その上で鞘に仕舞ったあの剣で、不意打ちでしかも一刀両断したのか……?


 この人も、周りでモンスターと戦っている連中も人間のようにしか見えないが。

 

 一度ならず二度までも。俺は、訳のわからない状況や連中に、騙されようとしているんじゃ。


「カイヒさん、ですね。カイヒ……カイヒ……?」


 まるで、そう。


 俺の名前にピンときたように、アイスはどこかに電話をかけ出した。


「ちょっと待ってください……もしかしたら……!」


 なにをそんなに動揺するのか、電話が繋がったようで教えてくれなかった。


 だけど。

 甲冑に仕舞っていたスマホ。

 

 引きこもりでも情報が入手できるほど話題になっていた、最新機種ではないか。


 まだ状況が把握できないのは相変わらずだったが。推測は辛うじてできるらしい。


 騎士達が異世界の人間ではなかった。

 

 そして、一番大事なこと。血でべっとり汚れていた俺はまだ。


 気持ち悪さを感じるくらい、元気よく生きていた。

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