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18.謀略の末に

 原生林、その中央にそびえた塔を道標に歩き、俺達はついに辿り着いた。


 森の見張り台、敵襲に備えての観測所が用途はわからないが、放置され何百年も経っているという不気味な雰囲気が石造りの外観からひしひしと伝わってくる。


 あるいはこれも、あの糞女神がこの即席ダンジョンの意匠に合わせたデザインで、新品のハリボテを俺達が見上げているだけなのかもしれない。


 入口の様子を見逃せない位置に茂った陰に俺達は身を潜めた。

 そこへ、先遣し塔の情報収集を行ってきたユノが気配を起こし合流した。


「誘拐された削銘様は特に拘束されてはいませんでした」

「生徒さんの達の方は」

「説得に、難儀されているご様子で」


 削銘らしい心遣いに、アイスは苦笑を交え安堵の溜め息をついた。


「ユノちゃんも、復帰直後なのに」

「そういったお話は、主神を救出した後で」

「謹慎が足りなかったんじゃないか? アニキからもガツンと言ってやれ。犬派だってな」

「僕は無派閥だよ」


 全員、いつも通りの調子だ。


 誘拐されこれから助けられる削銘の気を想えば、普段と変わらない方が気は楽だとは思うけど。


「それと。塔の中には生徒の一人が魔法で召喚したと思しき低級の魔物が警備しています」

「おそらくは犯行声明を開陽様達に飛ばした念話使いが、おなじ方法で魔物を操っているのでしょう」

「姉様は、久志様と開陽様達に、防御魔法を掛け万が一の洗脳に備えるよう。遊撃隊は姉様お二人にお任せします」


 自分はもう一度潜伏し、隙を見て削銘を救出する。


「待ってくれ。ここは生徒たちの要求に一旦従って、開陽を彼らに会わせよう」


 声を殺し、それでもアイスは取り乱した。


「女神がどんな罠を仕掛けてくるか予想できない以上、危険過ぎる……!」


 ダンジョンを創ったのは女神だが、迷宮には干渉できないから、生徒たちを使って削銘を餌に俺をおびき寄せようとしている。


 久志が出発前に俺達に釘を刺したことだ。


「ユノを随伴させる。頼めるかい?」

「私を、ですか」

「アイスさんだと警戒されるが、僕が護衛騎士を貸せば、誘拐犯の交渉に生徒会側が乗る意思表示として伝わる」


 それで、それで削銘が無事でいられる確率が上がるなら。


「ミチルさんの時とは状況が違います! 女神に唆されたとしても、彼らは、削銘様を今回の標的に」

「だからこそ、俺が説得しないと。一番不満を持たれている、俺が」

「犠牲について語るのは英雄の口だ、開陽、君はそういうのじゃないだろう。ユノ、敢えて頼むとは言わない。僕の騎士に戻った君なら……なにをすべきか、わかるよね」

「女神に隙を突かれ呪いをかけられる奴が、守り切れるかどうか。アタシが突撃すれば万

事解決だってのにさー」


 だが命令は下された。

 おそらくその目を見たら、久志を知る者なら震え上がるに違いなかった。


「命令を遂行すると、命に代えて誓います」


 塔の入口。


 約束通り来たと言ったら、見張り役の魔物が陰から現れ案内した。交渉に乗り出さかった場合、この魔物によって奇襲は失敗していた。


「アイスも言ったけど……復帰早々、こんなことに巻き込んでしまって申し訳なかった」


 螺旋階段を俺と上がるユノは、巻き込まれた経緯についてはなにも言ってはくれなかった。


 久志とその護衛騎士は、復帰と護衛の引継ぎの挨拶に開陽たちの部屋を朝訪れ、ダンジョン転移に巻き込まれた。


貴方(あなた)は自ら囮になられた。尊敬します」

「やめてくださいよ。どうしたんですかいきなり、しかもそんな」


 狼の似姿をした魔獣が時たまふり返り、俺は隣のユノにまで気を割けない。


「力を持って生まれた者は、与えられた資格に見合う振る舞いをしなければならない。神の手で生まれた姉様達も、それにいい加減気付くべきだ」


 やはりまだアイスを認められないのか。


 余計なお節介を考えている間に、俺達はとっくに塔の頂上に到達した。


 魔物や生徒、それらの影に包囲された削銘は中央で跪いていた。


 縄のような光に縛られ口にはくつわがされていた。


「自由な状態で生徒を説得していたんじゃ……」


 リーダーと思しき生徒の一人が。

 ユノを見据えた次に言った。


「開陽は手に入ったんだから、学園長は解放しよう」

「駄目だ。二人にはここで死んで世界を救う礎になってもらう」


 なに? なんて? ――イシズエ?


「ごめんなさい……!」


 だれに謝ったか定まらなかったまま、生徒達の脇から走り出したひ弱そうな女子生徒が削銘の拘束を解いた。


「誘いに乗って加わったけど、やっぱりこんなの間違っている!」

「なにをしている!?」


 状態が読めず混乱する俺に。


「開陽君! 今すぐユノから――!」


 削銘が叫んだ。


 そこになんと、生徒に従う魔物よりさらに巨大、見上げるほどの狼が乱入し、魔物諸共生徒を蹴散らした。


「女神の魔石を使い召喚した俺の魔獣が!」


 生徒の一人が腰を抜かし呻くのを眇めた灰の毛皮を持つ巨狼。


『サレ!』


 身体を貫き五臓を打つ声。魔力を言葉に変換した命令だった。


 恐怖に駆られた生徒たちは塔から逃げ出した。


 魔物も声に吹かれ飛ばされ消滅し、後には生徒達が捨てた魔石だけが塔に転がっていた。


『こんなことだろうと思った』


 魔力を込めていなくても、呆れ果てたと一発でわかる声。

 それはよく聞いてみると、久志の臨時騎士だった。


 魔力で姿を変えているのが、彼女本来の姿を俺はこうして知ったのか。


 それよりも。


 短剣を構えたユノ。


 この塔の中で一人を相手取るのに今は姿が似合わないと、手足の一部に獣の特徴を残し縮小した臨時騎士。


 爪と刃の鍔迫り合い。それは永遠に続くとさえ思われたが、意外にも結末は早く、あっさりと終結したのだった。


「魔力で身体教化できない。勝敗は決していた」


 片腕で妹騎士の両腕を絞め上げた臨時騎士。


「自分の弱さを自覚しろ」

「姉様達のご指導通り、私は弱い。だからその『弱さ』を切り捨てた」

「なに!?」


 背後を取った二人目のユノが臨時騎士の背中に二本の短剣を突き刺した。


「毒、剣になにか塗って……いやその前に!?」


 意識を朦朧とさせながら臨時騎士は倒れ、ユノは、忌々しく歯を鳴らすそんな姉を足許に置き見下ろした。


「どうなってやがる。アタシは確かに、捕まえたはず」


 臨時騎士は毒で目の前にいたユノが蜃気楼のように見えたのか。


 俺の目にも、ユノが煙のように消えるのが見えた。


「複製体を造る魔法」


 削銘だった。


「そんなことが!」

「分身に実体を持たせられるだけの魔力が、ユノみてぇな半端モンにあるはずが!!」


 剣を収めたユノの手が替わりに持つのは魔石だ。


「魔力なら最高品質のがある。あなた達が封じてきた生徒の資質を、彼ら自身で開花できるほどのね」

「自分が強くなるために、創造主や守護すべき人を裏切った……そう言うのですか?」


 ひ弱そうに肩を震わせる生徒に、手を引かれてきたアイスは悲し気に言い。


 剣を抜いた。

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