表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/40

16.厄災の書

 棚を端まで見た俺は本を戻しため息をついた。


 これが確認した最後の本棚だった。


「見つけ、られなかった」


 俺がどうだったと質問するよりも早く、憔悴しきったミチルの声が背後でした。


 互いに目当ての本は見つからなかった。


「そっちはどうだ?」

「駄目、本当にあるのか……」


 ほかの生徒たちも徒労に終わったと落胆するばかりか、疑う者までいる始末だった。


「声をかけたのは俺達だけじゃなかったんだな」


 学園の図書室に厄災を招く禁書が隠されている。


 ミチルの護衛騎士曰く、それは大変貴重な代物で、ぜひコレクションの一つに加えたい。


「こんなものまで、用意して」


 ミチルの手にはカメラ。見つけたらここに保存してほしいと一台渡された。


 提供者には賞品として、禁書の一部を提供する。


「にしても……」

「ああ、多い」


 大方、暇つぶし感覚で集まった生徒達だろう。

 保護されている生活だと、ストレスをどうしても感じ新しい娯楽に飢える。


「人のことを言えた筋ではないが」

「わ、私はち、違う。興味、あったし」


 でも笑顔がぎこちない、いつにも増して。


 退屈を利用され使いっぱしりに仕立て上げられたことを、ミチルも引っかかっていた。


「もう馬鹿らしいから帰ろうぜ」


 生徒の一人が提案した。


「現地集合だったのに、私達を呼んだ騎士も来ないしね、余計退屈が増した」

「その前に。なあそれデジカメだろ。僕生まれてはじめて見た!」


 ちょっと貸してと、ミチルから獲ったデジカメに興奮する生徒。


 メモリをセットすると記念のつもりか、シャッターボタンを押した。


「あれ、なんだこれ」

「どうした?」

「なにも映らない」


 首を傾げた生徒の通り、カメラのモニターには撮れているはずの図書室の風景が黒く塗りつぶされていた。


「不良品か」

「そう、いえば……。図書室は記録保持のため、魔術で写真撮影ができない……」

「騎士がそう言ったの!? じゃあカメラの意味ないじゃない!」


 騙されたと多くの生徒が憤慨した。


「本当に俺達を揶揄うのが目的なら、メモリなんて最初から」


 それも参加した人数分、カメラは一台でもミチルに両手いっぱい託した。


「あ。なるほど」


 なにか閃いたミチル。


「記録は本棚だけに保存されているのではない」


 自分のメモリを挿した図書室のパソコンを起動した。


「……これだ。『奇跡の記録』」

「如何にもって感じの見つけたな」


 生徒達はパソコンの画面をこぞって覗き込んだ。


 その中からこんな疑問が聞こえてきた。


「USBメモリを渡せばすぐPCだってわかったのに」


 電子データなら切り分けて一部提供も可能。それはわかる。


「危険な情報ってことかな」

「偽装して、悟られないようしなければならないくらい」


 俺とミチル、生徒全員が唾を飲み下した。


「中身は、安全なはず」

「大丈夫かよ」


 ミチルがファイルを開いた。


「これは」


 保存されていたのは、写真。呪文の書かれた書物の写し、ではなく。


 かわいいドレスを着た女の子が笑顔で写っていた。


 ケーキのロウソクを吹き消す写真。誕生日パーティーだろうか。


「これのどこが、奇跡の記録?」

「……いや。これは、確かに、いや間違いなく奇跡を記録したもので『禁書』だ」


 なにを思ってそんなことを。


 ミチルは震えた声で言った。


「なあ、この写真の女の子の横に」

「後ろに写ってるのって」

「……アイスさん?」


 女の子の近くに写っている顔に、全員見憶えがあった。


 アイス、ミチルや生徒たちの護衛騎士。そして。


 主役の女の子から頬にキスを貰っていたのは、削銘だった。


「なあ、みんな……この女の子ってさ」


 生徒の一人が、最悪な一言を呟き、全員を青ざめさせた。


「この犬っぽい……いや犬のそれそのものといっていい耳とか。どことなく生徒会長の今の護衛騎士に似てない……?」


 図書室の扉が開く。一同がふり返る。


「久志兄ちゃん……?」

「生徒会長……!?」


 夕陽の逆行を浴びた、苦笑いの久志。


 ボロ雑巾のようにボっコボコにされたミチルの護衛騎士を床に棄て、コキコキと拳を鳴らす犬耳の騎士。


「こいつに頼まれて、面白いもん探してるって教えてもらったからさ。アタシらも仲間に入れてくれよぉ?」


○○○


 後になってアイスから聞いた話だ。


 図書室のパソコンには学校の当時の記録が電子で保存されている。

 俺達が生まれる前、まだパソコンが貴重品だった時代はアルバム用に撮った写真の保存先に図書館を使っていたらしい。


 時代が進んで、電子機器が一般に普及してからは、プライバシー、学園生活に直接関係のないデータは削銘が個人パソコンに移した。


 だが消し忘れが残っていた。


 ミチルの護衛騎士は削銘から削除を依頼されていた。当時から電子機器に詳しい騎士は限られていた。


 きっかけになったのは急な護衛騎士の交代。


 脅しに使う気はなかったが、面白がって手許に置いておこうと。


 欲に目が眩んだ、すべては思い込みだ。


 単独でいても怪しまれないと思い込み、生徒達に依頼し適当な口実をつけ騎士達を足止めした。


 ボロが出てバレるだろうと、冷静であれば気付いただろうに。


 呆れて笑うしかないアイスは事の真相をすべて話した後で、俺に尋ねた。


「それで、データの方は……?」

「ミチルの護衛騎士に代わって、見つけられた分は俺達が、責任を持って処分した」

「そ、そうですか……自分の黒歴史を消すのに、あの子は躍起になっていますからね」


 長姉としては複雑な気持ちだろう。


 運がよければ、まだどこかに残っているかもしれない。確実に消去できたか怪しいとあそこに居合わせた、不運にも集められた者全員が思ったに違いなかろう。


 命惜しさにパソコンを操作した震え。

 後遺症が、俺の手にはしばらく残ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ