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15.鬼(ヤンデレ妻)がみている

「急に呼び出して悪かったね」

「そんな止めてよ。まあ珍しいね、久志兄ちゃんが呼び出してまで俺に相談なんて」


 所謂、隠れ処的な喫茶店だった。街外れの閑静な住宅地にあって、日曜日でも客は少ないが雰囲気はいい。


「ややこしい事情なんだ。姉サマも他言無用で」

「わ、わかった……!」


 俺の隣でアイスは唇を固く嚙み合わせた。


 目立たないように私服姿の臨時騎士もだが、見たことのない深刻な表情。


「それで……?」


 兄的存在である久志の悩みならどんな相談でも引き受ける決意で臨んできた。


 緊張で渇いた口を水で潤していた。

 頼んだコーヒーをすすり俺も気を締める。


「女性と交際する方法について、率直なアドバイスをくれないか?」


 飲んでいたコーヒーを鼻から噴き出してしまった。


「こ、交際……虹彩(こうさい)の聞き間違いじゃなく」

「それなら眼科に相談するのでは」


 口が利けない俺に代わって事情を質問するアイスに騎士は呆れた。


「あはは、いやぁ。どこから話したら」

「入学してからアニキは週4日のペースで、女子から告白を受けているんだ」

「週4のペースで……!?」


 驚愕した俺に久志はさらに深く言い澱んだ。


「す、すごい周期ですね?」

「姉サマ、その顔はピンときてないな」


 俺だってアイスとおなじだ。


 久志が入学したのはだいたい二年前。


 おなじ周期で告白されると一年間で二〇八回。一クラス三十と見積もって五つのクラスがあるから、全女子生徒を半分と考えておよそ七五マイナス一名で七四人。


『よくやった。人数に入れたらコロスところだった』


 ミチルからテレパシーが伝わってきたので配慮した。


 すでに全員から告白されたとしても、同一人物から五回は交際を申し込まれていた。


「おモテに、なられるんですね」


 とってつけたように褒めている。


 確かに久志はモテるタイプだった。施設でも異性の方から同姓より慕われていたし。


 場所が代わっても天性の人望は廃れない。


「そう、ほんわかできればアニキも気が楽なんだが」

「告白の度にあちこち呼び出され体力が持たないんだ。お陰で学園内の構造は把握したけど」


 生徒会長だから案内できたわけじゃなかったんだ。


「なんというか」


 一気に老け顔になった久志に俺もアイスも手を合わせた。


「「ご愁傷様です」」

「これ、見てほしいんだ」


 久志は三つのアルバムを見せた。


「アルバム?」


 制服姿の女子生徒が映っていた。


「学園敷地内に写真館があるのは」

「知っている。就活に使う履歴書、アルバム用の写真を撮る場所だったよね」

「この三人の女子生徒は、アニキに特に猛烈なアタックを繰り返していて、勝手に機材を使ってこんな写真をラブレターと同封して送ってくるんだ」


 利発そうに姿勢を正す女子生徒。だが俺はその微笑に狂気を感じた。


 完全なお見合い写真ではないか。


 肩を落とした久志によると、この三人は写真部、新聞部、生徒会に属する生徒でスタジオに自由に行き来できる権限を持っていた。


「告白を止めるという手で、いっそだれかと交際をはじめてみては?」

「いやいや、アイスさんそれはいくらなんでも」

「もちろんそれも考えたさ」


 考えたのかよ。考えに行き着いてしまったのかよ。


「でも恐ろしくてできない。学園内で印象操作を行える立場に身を置いているんだ」


 あー。そういう。


 いやそうでなくても、久志が一人を選んで、あとの残りがどんな軽挙妄動に奔るか怖がって当然だ。


「これはあの学園で捨てるべき、世界に混乱を招く才能だ……」

「アニキ、いや生徒会長殿……今日までよく耐えたな……!」


 肩に手を置き親友を励ます臨時騎士。


「臨時である自分が情けない、あいつより上手く立ち回っていたら」

「あいつ……ユノちゃんのこと」

「これはアニキの、勇者としての素質だ。求心力が増大され魅了効果を生んでいる」


 護衛騎士も一度外れており、以降は魔力が最も高いか、逆に低すぎて魔力の影響を受けない騎士が配属された。


 それに加えユノが側にいた頃は、威圧感に怖がって女性は近付けなかった。


「担当騎士が替わり勢いが戻ったわけだ」


 信頼できそうな人間がもう学園内にはいないという意味で相談を持ちかけられたのか。


 かなり追いつめられている。


「だれも傷付け合わない、平和的解決を望んでいる」


 とはいっても、女性問題に疎く告白で人生に失敗経験のある俺に解決策なんて。


 丁度そこへ店員が店のサービスを紹介しにきた。


「サービス?」

「当店のご利用ははじめてですよね。この街のご当地キャラのファンクラブ会員に登録していますと、限定メニューが注文できるんです」

「これだ!」


〇〇〇


 一週間後、再びカフェに集結した。


「その後の進捗は?」

「プロマイドの撮影はまだ恥ずかしいけど、公式なだけつけ回されるよりずっといい」


 照れてはいるが先週より表情はずっとやわらかい。


 新聞部、写真部、生徒会合同で、生徒会長の活動を宣伝する記事を発行。


 ファンクラブ会員限定で、親友のオフショットが貰える特典付き。


「アニキの告白というハプニングを『推し活』というイベントに変換した開陽サマの機転、大成功だぜ!」


 褒める第三者がいる。


 まんざらでもない。


「そ、そう……?」


 女子生徒の鬱屈も晴れ、恋愛に対する痴情のもつれも発生しない。


「ユノが復帰するまで、これなら耐え忍べる。やっぱり開陽を男と見込んで相談してよかった」

「や、やめてよ兄ちゃんまでそんなお世辞……。彼女いない歴=年齢の自分がなぜ頼られたのか今でも不思議でならないってのに」

「開陽さん、ここは素直に受け取るのが殿方の在り方です」

「アイスさんまでそんな」


 ジュースのストローに口を付けるアイスの方がむしろ嬉しそうだ。


 俺を揶揄えて楽しんでいるのか。


「そうそう、いくら照れ隠しでも、そんなこと言ったら奥さんが泣くよ?」

「ぶ――――――!!?」

「アネキ!」


 久志も護衛騎士もアイスにおしぼりを渡した。


 あの、できればジュースまみれになったわたくしめにも、一つ。


「か、開陽さんに……既婚歴なんて……!」

「でも、一週間前、相談した後にこれが」


 久志の携帯に送られてきた、一枚の写真。


 先週の喫茶店、笑顔のキヨの奥に開陽達が写り込んでいた。


「店長、常連の人にまた言われたんですけど」

「俺も見た。でも一週間前、君、シフト休みだったよね……?」


 聞こえてきた店員どうしの会話に久志は青い顔で。


「……これ、もう学園中の生徒に送り付けられているん、だけど……」

「どこだぁああ! どこで見ていやがる!!?」


 席を立った俺は店内を見回し、盗撮犯を探した。

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