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プロローグ.目覚めよ勇者

「……なさい……目覚めなさい。勇者よ。目覚めなさい?」


 呼ばれたので仕方なく目を開けた。

 せっかく気持ちよく大の字で寝ていたのに。


「目覚めましたが、それで? なんすか?」

「勇者よ。突然ですが貴方は死にました。私の名前はアンナチュラル……異なる世界から来た女神です」

「これはご丁寧に」


 上体だけ起こし会釈をした俺に彼女は柔和に微笑んでくる。


 自称『異世界の女神』。

 それはとても眩しい人だった。

 なにせ、物理的に輝いているのだから。


 俺は制服姿で、豪奢な造りをした神殿で目を覚ました。

 鏡みたいに寝そべる俺の姿が映る地べたを、女神アンナチュラルは祭壇に置かれた椅子に腰かけて見下ろす。


 くたびれた学ランな俺と違い、羽衣をなびかせ如何にも『私は女神です』と誇張してきた。

 極め付けは……腰から伸びる九本の白い尾だった。恐らくあれが後光の正体らしい。


「記憶が曖昧なようですね。トラックに轢かれた影響でしょう」


 なるほど。俺の死因は事故死か。


 ははーん。なんか漫画やラノベでよく見た展開だぞ。


虎孔開陽(とらくかいひ)様。貴方にはこれより私の異世界へ赴き、魔王を討伐してきてほしいのです」

「強力なスキル、か、武器をください!」


 この手の『お約束』にはだいたい相場が決まっている。


 死んだ実感? この女の人が女神である保障?

 ビンビンに伝わってくる。


 これが〝死を受け入れた〟状態なんだろう。


「――くそがッッ!!」


 ……あれ??

 まあ死にたてらしいから、こういう聞き間違えもあるだろう。


 

 見ればわかる。生きている時は感じなかった魂の重みが今は。


 その女神がまさか、聞こえるくらい大きな舌打ちをする、そんなわけ。


「それは追々……。まずは転生前に、開陽様のこれまでの生涯をふり返る時間としましょう」


 神殿が暗転、姿見のような物体が空間に滲み出てきたかと思えば。

 それはモニターで。そこに映し出されたのは、俺の人生だった。


 これが俗にいう走馬灯というやつか。


 さして面白みのない、いや。見るに堪えないものだった。

 山場といえば高二の夏、密かに想いを寄せていた幼馴染みに勇気を出して告白した。

 

 同じ大学に行こうとお願いするもフラれ、幼馴染みの彼氏が学年トップの成績を誇る俊才。これが性格は最悪な男子だったため、虐めの標的にされ進級直後に俺は学校に通えなくなった。よくあるテンプレートってやつだ。


 走馬灯だからもしやと期待したが。

 両親の姿は一秒も登場しなかった。


 親と死別し施設で育った俺は施設の人間からは虐めを認知されていたため、不登校になっても責められない。


 夏休みに入った直後、進級から一度も出席していない今のままでは授業についていけないと、担任の事務的な対応で自主退学を説得され。施設の院長から、別の街に住む旧友の経営する学校に復学を頼んでみると言われ、意を決し再出発を目指す。


 ……で。

 体感一億年ぶりに着替え、自分の意志を学校に直に伝えに行こうとしたところ、暴走した軽トラに轢かれ死ぬなんて。


 軽トラにはねられる場面で映像が終わった。


 戦慄の顔で宙を舞う顔のドアップだ。

 なにもそんな場所で終映にしなくても。


「そういや。女神様、俺、車に吹っ飛ばされたのに、なんで身体が綺麗なままなの?」


 傷はおろか血の一滴もない。


「……汗、すごくない……?」

「ともかく! 死を受け入れ女神の管理する異世界に転生しなければならなくなりました! ああチートスキルをご所望でしたね、こちら一覧の中から好きなものをお選びください!」


 部屋が明るくなる直前、アンナチュラルの顔は冷や汗でいっぱいだった。

 

 焦っている? でも、なにを……?


「アンナチュラル様! いい加減およしなさい!」


 びっくりした! ……妖精?


 背中の羽で飛んでいるらしいが。仙人みたいな白ヒゲのインパクトが強くて別の生き物と一瞬見間違えた。


「世界を救うためとはいえ、このような騙すような真似」

「『騙す』?」

「騙してなんかないし! 言いがかりとかマヂだるいんですけど!」


 狼狽えるっていうか。キャラ崩壊を起こしていた、女神様。


「申し訳ございません。ただいま偽造前の本物の走馬灯をお見せします」


 また辺りが暗くなって同じ映像が再生されるかと思えば。


 鏡の中の俺は、軽トラックに轢かれそうになる……

 ……ギリギリのところで、回避していた。


「え……じゃあ、つまり」

「開陽様、貴方は、まだ死んでいません」

「――――ハァアア!?」


 てことはなに!?

 アンナチュラルが急かした理由、記憶が曖昧なうちに転生させられかけたってこと!!


 途端に生命力が、怒りが沸いてきた。


「生きているんなら、元の世界にとっとと返してください!」

「すぐに帰還魔法の準備を」


「……だめなんですけど」


 俺に手を構えた老妖精を、玉座から下りた女神の一喝が阻止した。


「この男はこれまでの勇者候補でも群を抜いた逸材。こんな人生負け組の引きニートがやっと世界で役に立つ時がきた」


 崩壊したこっちの糞キャラが素なのかよ!


「お言葉ですが。貴方様はこれまでも自分の管理する世界でないのに、勇者の素質があるというだけで死んだ魂を横取りしてこられました。母君に甘やかされて育ったばかりに。挙句に死んでもない人間を転生させようなどと。先代の女神である母を見習い、心を入れ替える日を待ったわたくしもまた甘かった。これからは心を入れ替えて精進するよう厳しく」


 ばん!!

 ――『ばん!!』?


「そんなに母上が好きなら、まず自分が会いに行きな」


 女神アンナチュラルの振るったハエ叩きで。

 

 妖精は無数の光を散らし消えた。

 

 騒ぎを聞き付けた妖精達は、恐怖に狼狽える。


 光に包まれていた俺も、恐怖をこの女神に覚えた。


 帰還魔法、とかいうのが発動した!?


「ばぁーか。運動神経ゼロみてーな見た目しやがって。私自慢の転生トラックよけた神罰だよ。ぜってー死んで異世界救ってもらうからな。神様なめんなよ! ザーコ! ザァアーコ!!」


 女神の指パッチンひとつ。魔法陣の展開した地面が割れ。


 それで俺は、落とし穴にすっぽり落ちていった。

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