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【三作目・全55話投稿予約済み】最強勇者の俺、倒すべき魔王が余命一ヶ月の少女だったので、看取ることにした  作者: 立花大二
第1章:看取る決意と旅の始まり

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第5話:村人たちの正義

 エリアの高熱は、一向に下がる気配がなかった。

 時折、うわ言のように「ごめんなさい……」と呟いては、苦しげな息を漏らす。その度に、俺の胸は締め付けられるようだった。


 賢者の庵までは、まだ数日の距離がある。このままでは、彼女の体力が持たないかもしれない。

 俺は葛藤の末、昨日通り過ぎたフォルト村へ、もう一度立ち寄る決意を固めた。薬師がいるかもしれないし、せめて清潔な水と、彼女が食べられそうなものを手に入れたかった。


 再び村に近づくと、その雰囲気が一変していることに気づいた。

 あれほど活気に満ちていた収穫祭の賑わいは嘘のように消え、村全体が重苦しい空気に包まれている。村人たちは不安げな顔でひそひそと何かを話し、時折、こちらを警戒するように窺っていた。


 俺が昨日エリアと立ち寄った井戸の周りには注連縄が張られ、屈強な男たちが槍を手に警備までしている。


「……何の騒ぎだ?」


 俺はエリアの体を木の陰にそっと降ろし、自身はフードを深く被って、様子を探るために村の中へと入った。

 雑貨屋の店主らしき男に、当たり障りのないように話しかける。


「何かあったのか? 村の様子がおかしいようだが」


 店主は俺を値踏みするような目で見ると、声を潜めて答えた。

「旅の方かい。昨日、この村に魔女が現れたんだ」

「魔女……?」

「ああ。若い娘の姿をしていたが、そいつが来てから、井戸の水は腐り、家畜は病気になり、赤ん坊は夜通し泣き止まなくなった。あれは間違いなく、災いを運ぶ魔女だ」


 やはり、エリアの魔力汚染が原因だった。俺の顔が険しくなるのを見て、店主は話を続ける。

「村の長老様が仰るには、近頃、世界のあちこちで起きている異変も、すべて魔王復活の兆しなのだとか。その魔女も、魔王の手下に違いねえ」


 そんな……。エリアは何もしていない。ただそこにいただけだ。

 だが、恐怖に囚われた人々にとって、真実などどうでもいいらしかった。彼らには、自分たちの不幸を押し付けられる「分かりやすい悪」が必要なのだ。


 その時、広場の方が騒がしくなった。

 村の若者たちが、松明や農具を手に集まっている。その中心で、村長らしき老人が声を張り上げていた。


「皆の者、聞け! 魔女はまだ、近くの森に潜んでいるはずだ! 神聖なる我らの村を穢す悪魔を、このままにはしておけぬ! 今こそ、我らの手で正義の鉄槌を下す時だ!」

「「「オオォォォ!!」」」


 若者たちの雄叫びが、空気を震わせる。

 彼らの目は、正義という名の狂信に燃えていた。これから行われるのが、無抵抗な少女一人に対する、ただのリンチであることに、誰も気づいていない。あるいは、気づかないふりをしている。


 ――これが、俺が守ろうとしていた「人々」の姿なのか。


 俺の心に、冷たい怒りが込み上げてきた。

 俺は勇者だ。人々を守るのが使命だ。だが、この者たちに、エリアを傷つける権利など、万に一つもない。


「……馬鹿げている」


 俺は背を向け、すぐにその場を離れた。

 雑貨屋の店主が「おい、兄さん、どこへ行くんだ!」と呼び止めるが、振り返らなかった。


 エリアを休ませていた場所に戻ると、彼女は苦しそうな寝息を立てていた。その無防備な寝顔を見ていると、先ほどの村人たちの顔が浮かび、腹の底から怒りが湧き上がってくる。


 守らなければ。

 誰に罵られようと、世界中を敵に回すことになろうと、この少女だけは、俺が絶対に守り抜く。


 俺はエリアの体を再び背負うと、村とは反対の、森のさらに奥深くへと歩みを進めた。

 背後からは、村人たちの「魔女狩りだ!」という勇ましい声と、松明の光が迫ってきていた。


 俺は一度だけ振り返り、燃え盛る松明の光を睨みつけた。

 彼らが掲げる「正義」が、どれほど脆く、身勝手なものか。俺は、もう知ってしまった。


 もし、彼らがエリアを見つけ、その指一本でも彼女に触れようものなら――

 その時は、俺が相手になろう。

 たとえ、勇者の名を捨てることになったとしても。


 俺は、迫りくる狂気の光から逃れるように、足を速めた。

 背中のエリアの熱が、まるで俺自身の焦りを映しているかのように、ますます高くなっていくのを感じていた。

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