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【三作目・全55話投稿予約済み】最強勇者の俺、倒すべき魔王が余命一ヶ月の少女だったので、看取ることにした  作者: 立花大二
第2章:絆と追跡者

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第21話:リアリストの選択

 意識が遠のいていく中、俺はゼノンの冷たい声を聞いていた。

「――全員、構えよ。勇者リアンと魔王を、同時に攻撃する。一切の情けは不要だ」

 カチャリ、と騎士たちが一斉に剣や弓を構える金属音が響く。

 もはや、これまでか……。


 俺は、最後の力を振り絞り、意識のないエリアの体の上に覆いかぶさった。

 せめて、盾にくらいはなれるだろう。

 エリア……すまない。約束、全部は守れそうにない……。


 俺が、完全に意識を手放そうとした、その時だった。

「――お待ちください、ゼノン様!」


 凛とした声が、その場に響き渡った。

 声の主は、騎士団の後方から駆け寄ってきた、カサンドラだった。

 彼女は、血の気の引いた顔で、目の前の惨状――半壊した街と、倒れている俺たち――を見つめている。


「カサンドラ……。あなたも来ましたか。ちょうどよかった。聖女であるあなたにも、この討伐を見届けていただきましょう」

 ゼノンは、カサンドラを一瞥しただけで、再び俺たちに杖を向けた。

「おやめください!」

 カサンドラは、ゼノンと俺たちの間に、身を挺して立ちはだかった。

「見てください! リアンは、これほどの深手を負っているのですよ! エリアさんも、意識が……! 今の彼らに、何の脅威があるというのですか!?」

「今はなくとも、いずれ脅威となる。ならば、根は今のうちに摘んでおくべきです。それが最も合理的でしょう」

 ゼノンの口調は、どこまでも冷静で、揺るぎがなかった。


「合理的……? あなたの言う正義は、そんなにも、血も涙もないものなのですか!?」

 カサンドラの悲痛な叫びが、響き渡る。

「リアンは、仲間だったではありませんか! 共に旅をし、笑い合い、背中を預け合った、大切な仲間だったはずです!」

「……過去の話です」

 ゼノンは、静かにそう返した。

「今の彼は、魔王に与し、世界を危険に晒す裏切り者。……私情で大義を誤るわけにはいきません。どきなさい、カサンドラ」

「嫌です! 私を殺してから、お行きなさい!」


 カサンドラは、両腕を広げ、決してそこを動かないという強い意志を示した。

 ゼノンは、そんな彼女の姿を、冷たい目で見下ろしたまま、しばらく黙り込んだ。

 騎士たちの間にも、戸惑いの空気が流れる。聖女であるカサンドラに、刃を向けることなど、彼らにはできない。


 長い、息の詰まるような沈黙。

 やがて、ゼノンは、ふぅ、と一つため息をついた。


「……分かりました」


 意外な言葉に、カサンドラが目を見開く。

 ゼノンは、構えていた杖を、ゆっくりと下ろした。


「……あなたの顔を立てましょう。今日のところは、見逃します」

「ゼノン……!」

「ただし、条件があります」

 ゼノンは、人差し指を一本立てた。

「魔王……エリアという少女の身柄は、我々が預かる」

「なっ……!?」


 俺は、朦朧とする意識の中で、その言葉に激しく抵抗しようとした。だが、声が出ない。

 カサンドラも、狼狽したように叫んだ。

「そ、それはどういう……!? 彼女をどうするつもりですか!?」

「殺しはしません。約束します」

 ゼノンは淡々と続けた。

「王都の最奥、聖なる光で満たされた『白亜の塔』に、彼女を幽閉します。そこならば、彼女の魔力は完全に封じられ、外に漏れ出すことはない。世界の歪みも、これ以上進行することはないでしょう」


 それは、一見すると、合理的な解決策に思えた。

 エリアを殺さず、世界の平和も守る。

 だが、カサンドラは、その提案の裏にある残酷さを見抜いていた。


「……そんなことをすれば、彼女は……!」

「ええ。魔力の器である彼女から、魔力そのものを断てば、彼女の生命力は急速に失われる。……おそらく、数日ももたないでしょうな」


 それは、処刑と何ら変わりない。ただ、死に至るまでの過程が違うだけだ。直接手を下すのではなく、ゆっくりと、確実に、死ぬのを待つ。

 あまりにも、非情な選択だった。


「……そんな……! それでは、あんまりです!」

「ですが、カサンドラ。これが、唯一の妥協案です」

 ゼノンの声には、有無を言わせぬ響きがあった。

「彼女をこのままリアンに任せておけば、いずれ第二、第三の悲劇が起きる。それは、あなたも望まないはずだ。……さあ、選びなさい。ここで、私とリアンもろとも、エリアを討伐するか。あるいは、彼女の身柄を我々に預け、リアンの命だけは助けるか」


 究極の選択だった。

 カサンドラは、唇を噛みしめ、苦悩に顔を歪ませた。

 彼女の視線が、倒れている俺と、そしてエリアの間を、何度も何度も行き来する。


 俺は、心の中で叫んでいた。

 やめろ、カサンドラ。そんな選択をするな。エリアを、渡さないでくれ……!


 だが、俺の声は、誰にも届かない。

 やがて、カサンドラは、絞り出すような声で、言った。


「…………分かり、ました……」


 その声は、絶望に満ちていた。

「……エリアさんの身柄は……お預けします。……だから、どうか、リアンだけは……」


 その言葉を最後に、俺の意識は、完全に闇の中へと沈んでいった。

 最後に見たのは、騎士たちに抱え上げられ、遠ざかっていくエリアの、小さな姿だった。

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