表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【三作目・全55話投稿予約済み】最強勇者の俺、倒すべき魔王が余命一ヶ月の少女だったので、看取ることにした  作者: 立花大二
第2章:絆と追跡者

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/22

第19話:届かぬ声、届いた温もり

 紫色の魔力が荒れ狂う嵐の中を、俺は突き進んだ。

 肌を焼くような魔力の奔流が、俺の体を絶え間なく打ち付ける。聖剣から放つ聖なる力で障壁を展開していなければ、一瞬で塵と化していただろう。


「エリア! 目を覚ませ!」


 俺は叫び続けた。だが、嵐の中心に立つエリアには、その声は届いていない。彼女の瞳は虚ろなままで、ただ無差別に破壊を振りまき続けている。

 その姿は、痛々しいほどに孤独に見えた。

 自分の制御できない力の中で、たった一人で溺れている。


「小賢しい真似を!」

 背後から、ギルヴァレスが追ってくる気配がした。奴もまた、エリアを止める(・・・・・)ために、この嵐に飛び込んできたのだ。もちろん、その目的は俺とは全く違う。


 俺が先に、エリアの元へ辿り着かなければ。

 俺は最後の力を振り絞り、嵐の中心――エリアの目の前へと躍り出た。


「エリア!」


 俺がその名を呼んだ瞬間、エリアの動きが、ほんのわずかに止まった。

 その虚ろな瞳が、一瞬だけ、俺を捉えたような気がした。

 だが、それも束の間。彼女は、まるで敵を認識したかのように、その小さな手を俺に向けた。

 掌に、圧縮された魔力が、紫色の光球となって収束していく。


「……殺……ス……」


 エリアの唇から、初めて、はっきりとした言葉が紡がれた。

 それは、憎悪と破壊の本能に染まった、魔王としての言葉。

 俺の胸が、鋭い刃で貫かれたように痛んだ。


 だが、俺は聖剣を構えなかった。

 斬ることは、できない。

 この少女を、俺の手で傷つけることだけは、絶対に。


 俺は、覚悟を決めた。

 聖剣を手放し、両腕を広げる。

 完全に、無防備な姿で。


「……リアンさん……?」


 俺の行動が、暴走する彼女の心にかすかな揺らぎを生んだのかもしれない。エリアの瞳に、ほんの一瞬だけ、元の理性の光が宿った。

 だが、一度放たれようとしている力は、もう止められない。

 紫色の光球が、俺の胸めがけて、放たれた。


「――それでいい、エリア」


 俺は、静かに目を閉じた。

 死を覚悟した俺の脳裏に、これまでの旅の記憶が、走馬灯のように駆け巡る。

 初めて会った時の、怯えた瞳。

 リンゴ飴を頬張った、無邪気な笑顔。

 温かいスープを飲んで、幸せそうに流した涙。


 短い、あまりにも短い時間だった。

 だが、俺の空っぽだった人生を、確かに満たしてくれた時間だった。

 こいつを守れたのなら、それでいい。


 衝撃を、待った。

 しかし、いつまで経っても、俺の体を破壊の光が貫くことはなかった。


 恐る恐る目を開けると、信じられない光景が広がっていた。

 俺の目の前で、エリアが俺をかばうように、背を向けて立っていたのだ。

 彼女が自ら放ったはずの魔力の光球は、彼女自身の小さな背中に吸い込まれるようにして、消滅していた。


「……ぐ……ぅ……!」


 エリアの体が、ぐらりと傾ぐ。

 暴走していた紫色のオーラが、嘘のように霧散していく。

 彼女は、最後の最後で、自らの意志の力で、暴走をねじ伏せたのだ。

 俺を、傷つけないために。


「……エリア!」


 俺は、崩れ落ちる彼女の体を、慌てて抱きしめた。

 腕の中のエリアは、糸の切れた人形のように、ぐったりとしている。その体は、まるで燃え尽きた炭のように、熱く、そして脆くなっていた。


「……リアン……さん……」

 か細い声が、俺の名を呼ぶ。

「……よかった……。怪我……なくて……」

 そう言って、彼女は安心したように、ふっと微笑んだ。

 それが、彼女の意識の限界だった。

 エリアは、そのまま俺の腕の中で、静かに目を閉じた。


「エリア! おい、しっかりしろ! エリア!」

 俺は何度も彼女の名を呼んだが、もう返事はなかった。

 ただ、かろうじて、弱々しい呼吸だけが続いている。


「チッ……! 土壇場で理性を……! 面倒な小娘め!」

 背後で、ギルヴァレスが忌々しげに舌打ちする音が聞こえた。

 俺は、意識のないエリアを抱きしめたまま、燃えるような怒りの瞳で、ギルヴァレスを睨みつけた。


「……貴様だけは」


 俺の口から、自分でも驚くほど、冷たい声が出た。

「貴様だけは、俺がこの手で、塵も残さず消し去ってやる……!」


 聖剣が、俺の怒りに呼応するかのように、黄金の光を激しく放ち始めた。

 勇者としてではない。

 ただ、愛する者を傷つけられた、一人の男として。

 俺の心は、生まれて初めて、純粋な殺意に満たされていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ