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【三作目・全55話投稿予約済み】最強勇者の俺、倒すべき魔王が余命一ヶ月の少女だったので、看取ることにした  作者: 立花大二
第2章:絆と追跡者

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第18話:力の暴走と心の叫び

「――エリア! 馬鹿、何をしてる!」


 俺の叫びも虚しく、エリアは小さな両腕を広げ、俺をかばうようにギルヴァレスの前に立ちはだかった。その体は恐怖で小刻みに震えている。だが、瞳だけは、強い意志の光を宿して、巨大な魔将をまっすぐに見据えていた。


「この人に……リアンさんに、酷いことしないで!」


 その必死の叫びは、しかし、ギルヴァレスには嘲笑の的にしかならなかった。

「フン、小娘が。勇者をかばうとは、魔王の名折れも甚だしい。……まあよい。ちょうど手間が省けたわ」


 ギルヴァレスは、振り下ろしかけた戦斧の動きを止めると、空いている左手をエリアに向けた。その掌に、渦を巻くように黒い魔力が収束していく。

「我が主の魂よ、仮初の器よりいでよ!」


 詠唱と共に、エリアの体から黒いオーラのようなものが引きずり出され始めた。

「……あ……ああ……っ!」

 エリアの体が痙攣し、その場に膝から崩れ落ちる。その表情は、魂を直接引き裂かれるような、凄まじい苦痛に歪んでいた。


「やめろ……! ギルヴァレス、やめろぉぉっ!!」


 俺は弾き飛ばされた聖剣を拾おうと手を伸ばすが、体が言うことを聞かない。先ほどの一撃で、全身を強打していたのだ。

 エリアの体から漏れ出す黒いオーラは、みるみるうちに濃くなっていく。このままでは、彼女の魂ごと、魔王の力に喰われてしまう。


 その時だった。


「……いや……」


 苦痛に呻いていたエリアの口から、か細い、しかし、はっきりとした拒絶の言葉が漏れた。


「……いやだ……! この力は、あげない……! これは、私をここまで生かしてくれた……リアンさんと、旅をした……私の、力……!」


 それは、彼女の心の叫びだった。

 魔王の力は、彼女にとって呪いでしかなかったはずだ。だが、その力があったからこそ、彼女の命は、今日までかろうじて繋ぎ止められていたのも事実だった。

 その力を奪われることは、彼女にとって、俺との旅の記憶そのものを奪われることに等しかったのかもしれない。


 エリアが、最後の力を振り絞るように、叫んだ。

「――いやぁぁぁぁぁぁっ!!」


 瞬間、エリアの全身から、凄まじい魔力の嵐が迸った。

 それは、ギルヴァレスが引きずり出そうとしていた黒いオーラとは違う。紫色の、破壊的な輝きを放つ奔流。

 今まで彼女が必死に抑え込んできた、魔王の力が、完全に暴走したのだ。


 ズドォォォォン!!


 魔力の衝撃波が、ドワーフ・フォートの広場を薙ぎ払う。

 石畳は粉々に砕け散り、周囲の建物は木っ端微塵に吹き飛んだ。俺も、ギルヴァレスも、その圧倒的な力の前に、木の葉のように吹き飛ばされる。


「ぐ……おぉっ……!?」


 ギルヴァレスですら、その威力に驚愕の声を上げていた。

「な……なんだ、この力は……! 我が主の魂が、小娘の感情に共鳴して、暴走しているというのか……!?」


 広場の中央には、紫色の魔力のオーラを立ち上らせるエリアが、虚ろな目で佇んでいた。

 その瞳には、もう光はない。理性を失い、ただ破壊の本能に突き動かされる、まさしく「魔王」の姿だった。


「……ア……ァ……」

 エリアの口から、意味をなさない呻き声が漏れる。

 彼女が腕を振るうと、それに呼応して、魔力の奔流が鞭のようにしなり、近くの建物を薙ぎ倒した。


 まずい。このままでは、街が、人々が……!

 そして、何よりも、エリア自身の魂が、この暴走に耐えきれずに焼き切れてしまう。


「エリア! しっかりしろ! 俺が分かるか!?」

 俺は、痛む体を叱咤し、立ち上がって叫んだ。

 だが、俺の声は、彼女には届いていない。暴走する魔力の渦は、ますます勢いを増していく。


「チッ……! 面倒なことを……!」

 ギルヴァレスが舌打ちし、戦斧を構え直す。

「こうなれば、力ずくで魂を剥ぎ取るまで! 貴様のその器ごと、砕いてくれるわ!」


 ギルヴァレスが、暴走するエリアに向かって突進しようとする。

 止めなければ。

 俺が止めなければ、エリアはギルヴァレスに殺されるか、あるいは自らの力で自滅するかの、どちらかだ。


 俺は、聖剣を強く握りしめた。

 この暴走を止める方法は、一つしかない。

 この聖剣で、力の源である彼女自身を、斬る。

 それは、俺が最初に彼女と出会った時に、できなかったこと。

 そして、絶対にしないと、誓ったことだった。


「……くそっ……!」


 迷っている時間はない。

 俺は、覚悟を決めた。

 エリアを救うために。たとえ、この手で彼女を傷つけることになったとしても。


 俺は地面を蹴り、紫色の嵐の中心へと、向かっていった。

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