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【三作目・全55話投稿予約済み】最強勇者の俺、倒すべき魔王が余命一ヶ月の少女だったので、看取ることにした  作者: 立花大二
第2章:絆と追跡者

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第17話:魔将ギルヴァレス

 ドワーフ・フォートでの束の間の平穏は、突如として破られた。

 スープを飲み終え、俺たちが食堂を出ようとした、その時だった。


 街の広場の方角から、人々の悲鳴と、何かが破壊される轟音が響き渡ったのだ。

「きゃあああっ!」

「な、なんだ!? 魔物か!?」


 街は一瞬にしてパニックに陥った。人々は我先にと逃げ惑い、露店は薙ぎ倒され、穏やかだった街並みは混乱の坩堝と化す。

 俺は即座にエリアを背後にかばい、聖剣に手をかけた。


「……この気配……魔族か」

 それも、ただの魔族ではない。凝縮された、強大で邪悪な魔力。これほどの魔力を持つ存在は、そう多くはない。

 俺は舌打ちした。なぜ、こんな人間の街に。まさか、俺たちを追って――。


 その考えは、広場の中央に立つ一体の魔族の姿を見て、確信に変わった。

 漆黒の全身鎧に身を包み、背には巨大な戦斧を背負っている。その兜の隙間から覗く両目は、まるで溶岩のように赤く爛々と輝いていた。

 その姿、忘れるはずもない。


「……ギルヴァレス……!」


 先代魔王に仕え、「魔将」の異名で恐れられた、魔王軍最強の将軍。

 かつて俺が魔王城へ向かう道中で、一度だけ刃を交えたことがある。その時は、辛うじて退けるのがやっとだった。なぜ、こいつがここに。


 ギルヴァレスは、周囲の混乱など意にも介さず、その赤い双眸で、人混みの中にいる俺たちを的確に捉えていた。


「――見つけたぞ、偽りの魔王よ」


 地響きのような、重い声が響く。その声は、明確にエリアに向けられていた。

「ひっ……!」

 エリアは、ギルヴァレスの殺気に当てられ、俺の後ろで小さく悲鳴を上げた。


「ギルヴァレス! 貴様の狙いは何だ!」

 俺が聖剣を抜き放ち、叫ぶ。

 ギルヴァレスは、俺を一瞥すると、侮蔑するように鼻を鳴らした。

「勇者リアンか。まだ、そのような小娘の護衛ごっこを続けていたとはな。貴様も堕ちたものよ」

「黙れ。この街の人間を巻き込むな。用があるなら、俺が相手だ」

「フン。貴様などに用はない。我が用があるのは、その後ろにいる小娘がその身に宿す、『力』だけよ」


 ギルヴァレスは、背中の戦斧を抜き放つ。それは、俺の身の丈ほどもある、巨大な両刃の斧だった。

「偽りの魔王よ! その身に余る大いなる力を、我が主、真の魔王様のため、返上していただく!」


 そう叫ぶと、ギルヴァレスは地面を蹴った。

 巨体に見合わぬ、恐るべき速度。一瞬で俺たちの目の前に迫ると、戦斧を横薙ぎに振り抜く。

 轟、と風を切り裂く音が響く。まともに受ければ、エリアもろとも両断されるであろう、凄まじい一撃だ。


「くっ……!」

 俺はエリアを突き飛ばし、聖剣でその一撃を受け止めた。

 ガギィィィン!!

 鼓膜が破れそうなほどの金属音が響き、俺の腕に骨が砕けるかのような衝撃が走る。聖剣が、悲鳴を上げるように軋んだ。

 なんというパワーだ。以前戦った時よりも、さらに強力になっている。


「リアンさん!」

 地面に倒れたエリアが、悲痛な声を上げる。

「逃げろ、エリア! ここから離れるんだ!」

「で、でも……!」

「いいから行け!」


 俺はギルヴァレスの戦斧を押し返しながら叫んだ。

 エリアは一瞬ためらったが、やがて涙を浮かべながら頷くと、瓦礫の散らばる路地裏へと駆け込んでいった。


「……逃がすと思ったか」

 ギルヴァレスが、低い声で呟く。

「お前の相手は、俺だと言ったはずだ!」


 俺は聖剣に聖なる力を込め、ギルヴァレスを力任せに押し返すと、そのまま間髪入れずに剣を振るった。

 剣と斧が、火花を散らしながら何度も激突する。

 広場は、俺とギルヴァレスの戦いによって、凄まじい勢いで破壊されていった。石畳は砕け、建物は崩壊し、街の自警団であるドワーフたちが、なすすべもなく遠巻きに見ている。


 強い。

 純粋な戦闘能力において、ギルヴァレスは俺がこれまで戦ってきた中でも、間違いなく最強の敵だった。

 だが、負けるわけにはいかない。俺がここで負ければ、エリアが殺される。


「なぜだ、ギルヴァレス!」

 俺は、刃を交えながら叫んだ。

「なぜ、エリアを狙う! 彼女は、お前たちの主だった先代魔王の力を継いでいるんだぞ!」

「黙れ!」

 ギルヴァレスが、怒りを込めて斧を振り下ろす。

「あの小娘は、ただの『器』に過ぎん! 我が主の魂は、まだあの小娘の中で眠っておられる! あの小娘から力を奪い、より相応しい器に注ぎ込むことで、我が主は完全なる復活を遂げられるのだ!」


 なんだと……!?

 ギルヴァレスの言葉に、俺は戦いの最中にもかかわらず、凍りついた。

 エリアの死は、終わりではない。それは、真の魔王が復活するための、儀式の一部に過ぎなかったというのか。


 俺が動揺した、その一瞬の隙。

 ギルヴァレスの戦斧が、俺の聖剣を弾き飛ばした。

「――終わりだ、勇者!」

 がら空きになった俺の胴体目掛けて、ギルヴァレスの斧が振り下ろされる。

 避けられない――!


 俺が、死を覚悟した、その時だった。

「――やめてっ!!」


 路地裏から飛び出してきたエリアが、俺とギルヴァレスの間に、そのか細い体で割り込んだのだ。

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