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【三作目・全55話投稿予約済み】最強勇者の俺、倒すべき魔王が余命一ヶ月の少女だったので、看取ることにした  作者: 立花大二
第2章:絆と追跡者

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第14話:リアンの過去

 廃教会での一件以来、俺たちの間の空気は少しだけ変わった。

 エリアは、自分の存在がもたらす罪の重さに怯えながらも、それを俺と二人で背負っていく覚悟を決めたようだった。以前よりも口数は減ったが、その瞳の奥には、芯の通った強い光が宿るようになっていた。


 俺たちは、カサンドラからもらった地図を頼りに、追手の目を逃れながら南へと旅を続けていた。

 山を越え、谷を渡り、人家のない荒野を進む。

 旅は過酷だったが、エリアは弱音一つ吐かなかった。時折、俺の背中で苦しそうに咳き込むことはあったが、すぐに「大丈夫です」と気丈に振る舞うのだった。


 そんな旅の途中、俺たちは、ある荒れ果てた土地を通りかかった。

 そこは、崩れかけた家々の残骸が点在し、風化した墓標が寒々と立ち並ぶ、廃村だった。かつては人が住んでいたのだろうが、今はもう、生命の気配はどこにもない。


「……ここは?」

 俺の背中で、エリアが訝しげに尋ねた。

 俺は足を止め、懐かしい、そして痛みを伴うその風景を、静かに見つめていた。

「……俺の、故郷だ」


「え……」

 エリアが息を呑むのが分かった。

 そうだ。ここが、俺が生まれ育った場所。勇者リアンという存在が作られた、始まりの場所だった。


 俺は、エリアを背負ったまま、ゆっくりと村の中を歩き始めた。

 崩れた教会の前で、足を止める。

「俺は、孤児だった」


 俺は、誰に言うでもなく、静かに語り始めた。今まで、誰にも話したことのない、俺自身の過去を。

「この村は、昔、魔物の襲撃で滅んだ。両親も、村の人間も、みんな死んだ。俺だけが、教会の瓦礫の下で、奇跡的に生き残っていた」

 幼い頃の記憶は曖昧だが、炎の熱さと、人々の悲鳴だけは、今も耳の奥にこびりついている。


「俺を助け出したのは、王都から派遣された聖騎士団だった。そして、彼らは気づいた。俺の体に、聖なる力が宿っていることに。……勇者の素質がある、とな」

 それからの俺の人生は、俺のものではなくなった。

 俺は王都へ連れて行かれ、「勇者」として育てるための、特別な教育を施されることになった。


「来る日も来る日も、訓練の毎日だった。剣術、魔法、戦術……。だが、一番重要視されたのは、『感情を殺す』訓練だった」

 俺は自嘲気味に笑った。

「勇者は、世界の希望だ。私情に流され、判断を誤ってはならない。仲間が死んでも、涙を見せるな。敵を斬る時に、情けをかけるな。ただ、世界を救うという義務だけを考えろ、と。……そう、叩き込まれた」


 愛も、悲しみも、喜びも、すべてが「不要なもの」として、俺の中から少しずつ削り取られていった。

 気づいた時には、俺は最強の剣技と、空っぽの心を持った、ただの「兵器」になっていた。


「だから、俺は、あんたの気持ちが少しだけ分かる気がするんだ」

 俺は、背後のエリアに語りかける。

「望んでもいない運命を背負わされて、自分の意志とは関係なく、世界のための役割を押し付けられる。その窮屈さが、痛みが……。俺は、ずっとそれを当たり前だと思って生きてきた。諦めていたんだ」


 エリアは、黙って俺の話を聞いていた。

 彼女の体温が、背中からじんわりと伝わってくる。


「でも、あんたと出会って、俺は初めて自分の意志で決めた。『こいつを守りたい』って。……それは、勇者としての義務なんかじゃない。俺自身の、本当の気持ちだった」


 俺は、そこで言葉を切った。

 もう、話すべきことは何もなかった。


 長い沈黙の後、エリアが、震える声で言った。

「……リアンさんも、ずっと、一人だったんですね」


 その言葉は、俺の心の鎧を、いともたやすく貫いた。

 そうだ。俺はずっと、孤独だった。

 仲間に囲まれている時でさえ、王都で英雄と称えられている時でさえ、俺の心を本当に理解してくれる者はいなかった。


「……私も、同じです」

 エリアの声が、俺の耳元で囁く。

「魔王になってから、ずっと一人で、怖くて、寂しくて……。でも、今は、リアンさんがいます。……一人じゃない」

 そう言うと、エリアは、俺の首に回していた腕に、そっと力を込めた。

 まるで、壊れ物を抱きしめるかのように、優しく。


 その温もりが、凍てついていた俺の心を、少しずつ溶かしていくのを感じた。

 俺たちは、互いの孤独を分け合い、互いの傷を舐め合うようにして、ただそこに佇んでいた。


 風が吹き抜け、廃村の墓標がカタカタと音を立てる。

 それは、俺が捨ててきた過去が、ようやく報われたような音に聞こえた。

 俺は、この少女と出会うために、生きてきたのかもしれない。

 柄にもなく、そんなことを思った。

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