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【三作目・全55話投稿予約済み】最強勇者の俺、倒すべき魔王が余命一ヶ月の少女だったので、看取ることにした  作者: 立花大二
第2章:絆と追跡者

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第13話:それぞれの正義と罪

 少年の憎悪に満ちた言葉は、重い呪いのように廃教会に響き渡っていた。

 エリアは、それから一言も口を利かなくなった。ただ、膝を抱えてうずくまり、虚ろな目で地面を見つめているだけだった。

 彼女が大切に眺めていた青い花も、まるで彼女の心を映すかのように、力なく萎れて見えた。


 俺は、かける言葉を見つけられずにいた。

 少年の言葉は、紛れもない事実だったからだ。俺たちは、旅を続けるだけで、無数の人々を不幸にしている。その罪から、目を背けることはできない。


 夜になっても、エリアは食事に手をつけようとしなかった。

 俺は、ただ黙って、彼女の隣に座り、燃える焚き火を見つめていた。

 静寂を破ったのは、エリアのか細い声だった。


「……私、やっぱり、死んだ方がいいんです」


 その声は、感情が抜け落ちたように平坦だった。

「私が生きているだけで、誰かが不幸になる。誰かの村を壊して、誰かのお父さんやお母さんを奪ってしまう……。そんなの、あんまりです。もう、嫌なんです」


 俺は、唇を噛みしめた。

 ここで「そんなことはない」と慰めるのは、ただの欺瞞だ。

 だから、俺は別の言葉を選んだ。


「……お前のせいじゃない」

「でも……!」

「お前のせいじゃない」

 俺は、もう一度、強く繰り返した。

「罪があるとするなら、それは俺の罪だ」


 エリアが、驚いたように顔を上げた。

「……どういう、ことですか?」

「お前の力が世界に与える影響を、俺は知っていた。賢者にも警告された。それでも、俺はお前を連れて旅をすることを選んだ。……村を滅ぼしたのは、俺の選択だ」


 そうだ。これは、俺が背負うべき罪だ。

 このか弱い少女に、世界の命運も、人々の不幸も、すべてを負わせていいはずがない。


「だから、お前が気に病むことじゃない。すべての責任は、俺が取る」

「……リアンさん……」

「俺は勇者失格だ。世界を救うどころか、自らの手で人々を不幸にしている。だが、それでも……」


 俺は、エリアの潤んだ紫色の瞳を、まっすぐに見つめた。

「それでも、俺はお前が死んだ方がいいなんて、絶対に思わない。お前を生かすという俺の選択が、たとえ世界中の人間を敵に回すことになったとしても、俺はそれを後悔しない」


 それは、俺の覚悟であり、エゴだった。

 一人の少女の命を、世界そのものよりも重いと信じる、独善的な正義。

 だが、今の俺には、それしか縋るものがない。


 俺の言葉を聞いて、エリアの瞳から、再び涙がこぼれ落ちた。

 しかし、それは先ほどまでの絶望の涙とは、色が違って見えた。


「……どうして……」

 エリアは、震える声で尋ねた。

「どうして、リアンさんは、そこまでして私を……?」


 その問いに、俺は即答できなかった。

 なぜだろう。

 ただ、彼女の儚さに、守らなければならないと思ったからか。

 いや、違う。

 俺は、彼女の中に、かつての自分を見ていたのかもしれない。


 義務と運命に縛られ、自分の意志を持つことを許されず、ただ世界のために消費されるだけの存在。

 俺も、エリアも、同じだったのだ。


「……お前に、自由になってほしいからだ」

 俺は、ようやく言葉を紡ぎ出した。

「魔王でも、世界の脅威でもない。ただのエリアとして、残された時間を生きてほしい。笑って、泣いて、怒って……当たり前の人間みたいに。……ただ、それだけだ」


 俺の答えに、エリアは息を呑んだ。

 そして、堰を切ったように、声を上げて泣き始めた。

 それは、自分の罪に怯える涙ではなく、自分の存在を肯定されたことへの、安堵の涙だった。


 俺は、彼女の小さな体を、そっと引き寄せた。

 俺たちが背負った罪は、決して消えることはないだろう。この旅が終わるまで、いや、終わった後も、ずっと俺たちを苛み続けるに違いない。


 だが、それでも。

 俺たちは、進むしかないのだ。

 互いの存在だけを支えにして。


 その頃、遠く離れた王都では、ゼノンが国王に謁見していた。

「――魔王の魔力汚染は、我々の想定を遥かに上回る速度で拡大しております。もはや、一刻の猶予もありません」

 ゼノンの冷徹な報告に、国王は苦渋の表情で頷く。

「……分かっておる。だが、勇者リアンが魔王の側にいる限り、討伐は困難を極める……」

「策はあります。……ですが、それは、リアンを完全に『敵』と見なす、非情な策となりますが」


 ゼノンの瞳には、かつての仲間への情など、ひとかけらも残ってはいなかった。

 彼の信じる「世界の平和」という正義が、今、まさに俺たちを断罪しようと、その牙を研いでいることを、俺たちはまだ知らなかった。

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