episode2
都市部から少し離れた脇道を抜けた先にある校門を通って学校の中に入った。
「おはようございまーす!」
「おはよう!」
校門の前に教頭先生が立って次から次へと来る生徒に挨拶をしていた。
私たちも挨拶をされた。宗眞と茉莉は明るく返事をした。廣も小さくお辞儀をしていた。
その横に生徒会長の武下が立っていた。
彼はいつも明るく、饒舌で、何人もの応援演説をして応募者を当選させてきた。
成績も優秀だから、数十人しか入れない成績優秀者クラスに通っている。
「武下くん!おはよ!」
「おはよ。」
「キャー!」
おまけに顔もかっこいい。長身でスラっとしてる。そのため、他クラスの女子から絶大なる人気を博していた。
「菊音ちゃん。おはよ。」
「お、おはようございます。」
武下は私に近づいて顔を覗き込むようにして挨拶をしてきた。廣の方を見ると、歩く足を止めてこちらをジッと睨んでいた。
私は武下に挨拶をした後自転車を押してすぐにその場から離れた。
彼と私は幼稚園からの幼馴染かつ近所に住んでいて家族絡みで仲がいい。
お互い中学校は違う学校に通っており、高校で久しぶりに合流した。
昔から顔は整っているとは思っていたが、高校になってさらに磨きをかけていた。
「菊音すごいな〜!」
「なにが?」
茉莉がサッと横に引っ付いてきた。
「あの武下から挨拶されるって.....中々レアだぞ?ほら、あの武下ファンクラブ見てよ。」
茉莉が指差した方を見てみると、可愛らしい子たちが並んでこちらを睨んでいた。いつもの廣とは比にならないほどの目つき。なんなら廣の方が可愛く見えてきた。
「行こ行こ。あんな子達ほっとけばいいんだよ。」
茉莉は私の腕を引っ張った。
「菊音の歌声、楽しみだな〜!」
「うっせ。」
すると、前に歩いていた宗眞も茉莉に便乗して私をからかった。
「菊音の歌はトップレベルにすごいからな〜!」
「あんたまで何なんだよっ!」
私は自転車を前に押し出して宗眞にぶつけようとした。
「あっぶねぇな!」
私たちは3人は笑い合った。
茉莉が宗眞をからかいその二人の様子を見て私が爆笑する。この瞬間が、どんな時よりも、自分が素でいられた。
幸せという言葉がもったいないほどに。
「なぁ!廣もそう思うだろ?菊音の歌声!」
宗眞は少し前で歩いてる廣にしがみついた。
廣はいやいやその手をどけた。
「うん。まぁまぁかな。」
小さな声でそう呟いた。
隣で茉莉と宗眞がひゅーひゅー!と言いからかってきた。私はカッと全身が熱くなった。
「やめろよ茉莉。」
「そーだよお前らやめろ。」
廣と私は二人を落ち着かせようとした。普段あまり笑わない廣も珍しくケラケラと笑っていた。
茉莉はまるで男の子のように口を大きく開けて笑い転げた。
すると、後ろから悲鳴をあげるような大声がした。
「おい佐倉!」
「うっわお疲れ廣。」
大勢の生徒の合間から、強面の男が歩いてきた。
「ありゃあ、生指の工藤だ。」
宗眞は佐倉の後ろに隠れながら呟いた。
工藤はドシドシとその巨体な体でこちらに近づいてきた。
茉莉は私に身を寄せた。
「返事をしろ返事を!」
彼が通れば全員が道を開ける。全員が言うことを聞く。誰も逆らえない存在の教師だった。
「佐倉!聞いてんのか?!」
「なんですか。」
私たち3人は廣の後ろに回った。廣は分かったように堂々と私たちの前に立ってくれた。
「さっきから呼んだのに、返事もしないで。校門に立ってる教頭先生にも挨拶してないで。」
「友達と話してる時くらい周りのこと忘れるって。」
「あ?なんだその口の利き方は!」
キーン、コーン、カーン、コーン
「うっそやばいやばい!」
朝のホームルームが始まる5分前を知らせるチャイムが鳴った。
「廣!いくぞ!」
宗眞は廣の腕を掴んで走り出した。
「佐倉!」
工藤は走って教室に行こうとする佐倉たちを引き止めた。
「あとで職員室来い!」
「.....分かりました。」
廣は工藤を睨みつけながら宗眞と走って行った。
「菊音!自転車。」
「あ、あぁ!やばいやばい!」
「もう先行ってるよ?!」
「おう!またね!」
私は猛スピードで駐輪場に向かった。腕時計を確認するとホームルームが始まるまであと4分。
奇跡的に入り口に最も近いところが空いていた。自転車を止めて鍵を抜いてリュックを背負った。
そして、教室に向かって走り出した。
何度も転びそうになりながら私は走り続けた。
「菊音!おはよ!」
「瀬戸!時間ないよ!」
「やべやべあと何分?つうか階段やばいっ!」
「あと30秒!」
階段に続く廊下で、同じクラスメイトの瀬戸隼斗と合流した。
私たちの教室は一番上の4階にある。毎朝階段を登って行くのだが、これがなんとも苦しい試練であった。
「こら〜廊下走るな〜。」
「やっば。」
反対側の階段から担任の嶋田が歩いてきた。
「5!4!3!」
嶋田はカウントダウンを始めた。あえてゆっくりと歩きながら教室に入ってくれた。
「セーフ!」
「ふぅ〜あぶねー!」
私たちは走り込むようにして教室に入った。スライディングして隼斗は顔面から転んだ。
「ホームルームやるよー。」
隼斗が転んだ後すぐに嶋田が入ってきた。
「ほら瀬戸座れ〜。出席取るぞー。」
「隼斗立って!」
私は隼斗の肩を持って彼の体を起こした。隼斗は痛〜いと嘆きながら立ち上がり自席に向かった。
「菊音おはよ!」
「おっはー!」
クラスで一番仲がいい橘夏海に話しかけられた。
「また瀬戸と一緒に来たの?」
「たまたま廊下で会っただけだよ。」
「ふ〜ん。」
私と夏海は席が前後なため、ホームルーム中もずっと二人で喋っていた。そのためよく嶋田に注意される。「こら〜そこ喋るな〜。」
低い声が教室を静寂に包んだ。私は前を向き嶋田の話に耳を傾けた。
「今日は欠席連絡が入ってるのが、2人。小坂と前田が休みだ。」
「今流行りの感染症?」
クラスの男子が次々と朝のニュースの話題を出した。「まだ検査してないから分からないけど、多分そうだろうね。まぁ安静が一番だからな。みんなも気をつけるように。」
みんなが口を揃えて”気をつけようがないだろー”と嘆いた。
私は再び後ろを向いて夏海に問いかけた。
「なんか感染症感染症つて言ってるけどなにそれ?」
「知らないの?」
夏海はスマホのYahoo!ニュースの画面を私に向けた。
「繭熱?何それ。」
「感染したら高熱が出てそのまま一生下がらないんだって。怖いよね〜。」
「うん.....。授業の準備しよ。」
私は席を立って自分のロッカーに向かった。少し胸の奥がざわついてるのに違和感を持っていた。




