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猫しょう日録~ねこしょう にちろく~  作者: セアル


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5/5

              生 

病気による欠落表現アリマス、OKなお方のみどうぞ

 真白が死んだ後、彼女が最後まで口に出さなかった願いを叶える為に一房だけ桜色の髪を切り取った。


 なぜ年若い少女が、大火で焼けた家の借金を肩代わりしたのか。

 それは偏に、責任とそれを超える罪悪感を感じていたから。

 生き残ってしまった自分と番頭。

 その番頭に罪を背負わせたくないと、しかし身を売る様も見せたくないから、たった一人で遠く上方から江戸までやってきた。

 そんな彼女の願いは只の一つ。


 番頭に逢いたいと、たった一つだけだった。


 だから友唯は上方まで足を運び真白の残り香を頼りにすぐに番頭を探し当てたが、あまりにも分りやすいほど男は酒に溺れ堕落していた。

 後悔の念と、それ以上に彼女を失った事が大きいのだろう。

 何故ならば、男の鼻は見事なまでに削げ落ちていたから。

 そう真白を死に追いやった鳥屋を移したのは他の誰でもないこの男で、つまり二人は情を通じていたという事。

 それも病魔の進行の早さから鑑みるに大分以前から、恐らく両親も誰にも知られる事無く。


 だから、彼女はあれほどまでに責任をたった一人で抱え込んだのだろう。


 引き裂いてやりたい気持ちは押さえ込んだ。

 今この男に引導を渡しても、冥土で彼女と出逢うのを早めてやるだけだ。

 そんな祝福を与えてやるつもりなんて、微塵もない。

 自分はこれから、数百年は出逢えないというのに。



 友唯は泥酔している男の枕元に、真白の髪を置くとそっとその場を立ち去った。






「やはり、君はここにいるのがいいと思うよ」


 友唯は巫の遺体を埋めたあの鎮守の森に戻ってきていて、同じ場所に真白の亡骸を埋めた。

 勿論、彼女を投げ込み堂に入れるなんて考えたくもなかったし、実は二人目の月姫の遺体も城が焼け落ちる間際に抜け出しここに埋めていた。

 (よわい)数百年を生きた妖怪にとって、人を抱えて千里を一夜で駆けるなんて造作もないのだ。


 そして今回も、学んだことがあった。

 どんなに身近にあろうが、巫が調伏された時の年齢 十六にならないと居場所を感じる事が出来ないのだと。


 友唯は久方ぶりに猫の姿に戻ると、真新しい土の盛り上がりを枕に日向ぼっこと決め込んだ。



 ─── そう、長い長い日向ぼっこと ───







 月日は流れていく。


 一人の支配者に諸国が辛抱できなくなり不穏な空気が漂い始め、そんな折り諸外国から戦力が桁違いの船が開国を求めたりで、戦い、倒れ、勝ち、新たな時代が巡る。


 人々は自由に言論を唱えることを始め、それが遮られる様になると国は誤った方向へと突き進んでいった。

「戦」なんて地域の範囲ではなく、諸外国との戦争へと。

 最初は優勢だった戦いもやがて本土まで攻め込まれる結果となり、長い間人々を見守っていた鎮守の森にも炎が迫り焼け野原となってしまった。


 しかし人間の生命力は逞しく焼け野原さえも戦後復興で宅地開発されて、巫達を埋めていた場所にも一人の男が小さな動物病院を建て営み始めた。

 男は暮らし、妻を娶り、子供が産まれた。

 その子供も大きく育つと独り立ちして、妻を娶り、子供が生まれた。


 赤ん坊の若葉色の瞳、桜色の髪、可愛らしい声、眩しい微笑み、温かい力。


 例え魂が揺さぶられなくとも、細胞が核が遺伝子の一つ一つが肯定し歓喜に打ち震えた。



 ─── 嗚呼、初めてその幸せそうな笑顔を、一から百まで見守れる ───







 いつの間にか叩き付けるような激しい雨も止み、カーテンの隙間からは朝日が顔を覗かせている。


「君が十六になって猫の姿で私が初めて姿を見せて『ユキちゃん』と名を付けてくれた時は、本当に嬉しかったのだよ。 今生でも私が月巫女のモノになった証だからね」


 本当に一晩中、友唯は茜莉の寝顔を眺めていたのだ。


「だからあの準教授の正体を知りながらも唯見ていなくてはいけない時間は、本当に苦痛だったねぇ」


 その柔らかな髪を撫でる。


「月巫女があの男に『絶対負けないっ!』と念じてくれたから、私が手を出す事が許された」


 撫でる手を止め、触れる間際まで顔を近付けて


「『毒を抜く為』なんて大義名分がなければ、口付けする事さえ叶わないけれど」


 髪を一房手に取り、そっと唇を落とす。


「正体を尋ねてくれたから、やっと本当の事が話せたし、こうして側にいられて共に生きる事が許されたから、心から満足なのだよ」


 少しだけ離れて、茜莉を見る眼差しは誰よりも優しい。





 猫の妖怪の魂の縛鎖は生きている。

 主が心から望まないと、何の妖力も使う事が出来ない。

 主の命は絶対。

 命でなくとも、その魂の言霊は絶対。


 主を救う事も

 敵を退ける事も

 天候を変える事も

 そして、小さな仔猫の命を助ける事も

 全ては、主の御心のままに


 猫しょうは、その縛鎖を甘美な痛みとして望んで魂に刻み付ける。






「さてと月巫女に喜んでもらえるように、あの仔猫にまた生力を分けておくか。 元気になったら里親を探すよりも、病院猫にした方がいいかな。 そうしたら、月巫女がまた寝泊りしてくれるかね~」


 本来ならば、とっくに消えていた筈の小さな命の灯火。

 その火を灯し続けられていたのは、主が望んだ事と猫しょうの小さな企みから。


 友唯は白衣を羽織り軽く身支度を整えながら二階から階段を下っていると、ピンポ~ン!と、病院玄関のチャイムが鳴った。

 人々が、活動を始めたばかりの時間、病院が開くのもまだて看護婦達が出勤してくるにも早過ぎる。

 急患かと思ってインターホンを取った。


「はい、どうかしましたか」

「すみません、昨日はどうしても用事かあったので戻ったんですが、あのっ仔猫どうなりました!? 助かりましたか」

「えっ」










 人も妖も、決して捨てたものではありませんよ 











「大丈夫ですよ、手術も無事に成功しましたから」

「本当ですか、良かった~。 あの、ちゃんと引き取りますので、治療お願いします」

「えぇ、分りました。 今、玄関を開けますから面会してあげてください」

「あっ朝早くなのに、すみません」

「いいえ、どうぞ」




 ─── 本当にね、本当に君の言う通りだったよ ───




 玄関の鍵を開けながら、友唯は苦笑しつつそっと独り言ちる。


「少し残念ではあるけれど、此方の方が月巫女にとっては嬉しいだろうから、まぁ良しとするかね」








 ずっと、ずっと、今生まで

 そして、再び巫の魂を探し当てた


 何よりも、何よりも尊い御心と、その微笑を

HPの時は文字色変えたり、書体を変えたりできたので

過去現在未来の区別がつけやすかったんだけど

ここでは文字の大きささえも変えられないから

(一文だけじゃなくで全部変わってしまう)

見分けづらいなー(*_*;

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