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第60話 持ち寄る味と、同じ湯気

昼前、空は明るかった。

 冷えはあるが、光がやわらかい。

 冬の中に、少しだけ緩みがある。


 台所で味噌汁を作っていると、

 外で足音が止まる。


 戸が軽く叩かれる。


 「たえこさん」

 若い人の声。


 「どうぞ」

 戸を開ける。


 若い人が、両手で鍋を持って立っている。

 湯気が、ふわりと上がる。


 「これ、よかったら」

 少し照れた顔。


 「持ってきました」


 鍋の中から、味噌と出汁の匂い。

 前より、落ち着いた匂いだ。


 「中、どうぞ」

 若い人が一瞬迷うが、すぐにうなずく。


 靴をそろえて入る。

 動きが、前より自然だ。


 炬燵の横に座る。

 タマが布団の中で位置を変える。


 「今日は失敗してないと思います」

 「いい匂い」


 椀によそう。

 湯気が、静かに立つ。


 一口飲む。


 味は、しっかりしている。

 昨日より、さらに整っている。


 「どうですか」

 「いい」


 若い人が小さく息を吐く。


 「よかった」


 私は自分の鍋を台所から持ってくる。

 同じように椀によそう。


 「こっちも」


 若い人が少し驚く。


 「いいんですか」

 「持ち寄り」


 その言葉に、若い人が笑う。


 二つの椀が並ぶ。

 少し違う色。

 でも、同じ湯気。


 若い人が一口飲む。


 「やっぱり違いますね」

 「違います」


 どちらが上でもない。

 ただ、違う。


 炬燵の中でタマが動く。

 布団が少し膨らむ。


 みーちゃんは縁側からこちらを見ている。


 「こういうの、いいですね」

 若い人が言う。


 「いいですね」


 同じ言葉を返す。


 外は静か。

 音は少ない。


 でも、家の中には、

 二つ分の湯気がある。


 食べ終わると、

 鍋の底に少しだけ残る。


 「また作ります」

 「またどうぞ」


 若い人が立ち上がる。

 動きが、前より軽い。


 戸を開けると、冷えた空気が入る。


 若い人が坂を下りていく。


 炬燵に残る温度。

 椀の余韻。


 みーちゃんが言う。


 「並んだな」

 「うん」


 味は違う。

 でも、湯気は同じ。


 冬の暮らしは、

 こうして、

 少しずつ重なっていく。

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