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第59話 縁側の湯気と、少しだけ近い席

朝、空はうすく晴れていた。

 冬の光は弱いが、雲の切れ目から細く差している。


 台所で湯を沸かす。

 火の音が、家の中に静かに広がる。


 味噌汁を椀によそい、炬燵に運ぶ。

 タマはすでに布団の中にいる。

 みーちゃんは縁側に座り、外を見ていた。


 「晴れたね」

 「冬の晴れじゃ」


 食後、縁側に出る。

 湯飲みを両手で持つと、指先がゆっくり温まる。


 坂の下で、戸の開く音。


 若い人が出てくる。

 今日は手ぶらだ。


 こちらに気づき、少し会釈する。


 「おはようございます」

 「おはよう」


 若い人が坂を少し上がってくる。

 昨日ほど緊張していない。


 「今日はいい天気ですね」

 「冬にしては」


 縁側の前で足を止める。


 少し迷う顔。


 「ここ、座ってもいいですか」


 「どうぞ」


 若い人が縁側の端に腰を下ろす。

 板の冷たさに少し驚いた顔をする。


 「冷たいですね」

 「冬ですから」


 少し沈黙。

 でも、落ち着いた沈黙。


 タマが縁側に出てくる。

 若い人の膝の近くまで来て、止まる。


 「触ってもいいですか」

 「多分」


 手を差し出す。

 タマは逃げない。


 「おとなしいですね」

 「冬だから」


 みーちゃんが少し離れた場所に座る。

 若い人は猫がもう一匹いるとは思っていない。


 若い人が空を見る。


 「ここ、空が広いですね」


 その言葉に、少し頷く。


 去年の冬、同じことを思った。


 「夜は星も多いですよ」


 若い人が嬉しそうに笑う。


 「見てみます」


 坂の上から風が通る。

 縁側の板が少し鳴る。


 「ここ、落ち着きますね」


 言葉が、静かに残る。


 「そうですね」


 それだけ答える。


 しばらくして、若い人が立ち上がる。


 「また来てもいいですか」


 「どうぞ」


 若い人が坂を下りていく。


 縁側に残る静けさ。


 みーちゃんが言う。


 「席ができたな」


 「うん」


 縁側の端。

 ほんの少しだけ、

 人の温度が残っている。


 冬の村に、

 新しい席が、

 静かにできていた。

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