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第58話 こたつの端と、初めての室内

朝、雪は降っていなかった。

 空は曇っているが、冷えは昨日より弱い。

 冬の中休みのような空気だ。


 台所で味噌汁を作りながら、外を見る。

 隣の家の戸が開き、若い人が外に出てきた。


 少し迷うように周りを見ている。


 「何かありました?」

 声をかけると、若い人が振り向く。


 「あ、すみません」

 「何か?」


 手に小さな鍋を持っている。


 「これ、作ってみたんですけど」

 蓋を少し持ち上げる。


 湯気。

 味噌と大根の匂い。


 昨日より、ずっと落ち着いた匂いだった。


 「味、見てもらえますか」


 私は少し考える。

 外は冷えている。

 鍋は熱い。


 「中、どうぞ」

 自然に言葉が出た。


 若い人が一瞬止まる。


 「いいんですか」

 「寒いですから」


 戸を開ける。


 家の中の空気が、外へ少し流れる。

 若い人が靴をそろえて入る。


 居間を見る。


 炬燵。

 味噌桶。

 壁の影。


 「落ち着く家ですね」

 その言葉が、少し嬉しい。


 炬燵の横に座る。

 タマが布団の中から顔を出し、若い人を見る。


 「猫、ここに住んでるんですね」

 「だいたい」


 みーちゃんは縁側の近くに座る。

 いつも通りだ。


 鍋から椀によそう。

 湯気が上がる。


 一口飲む。


 「どうですか」

 若い人が身を乗り出す。


 味は、昨日より整っている。

 少しだけ味噌が強い。


 「いい」

 そう言うと、若い人の肩がほどける。


 「本当に?」

 「昨日よりずっと」


 若い人も一口飲む。


 「ちょっと濃いですね」

 「冬はそれくらいでいい」


 炬燵の中でタマが動く。

 若い人が少し笑う。


 「この猫、落ち着いてますね」

 「冬だから」


 少し沈黙。

 でも、気まずくない。


 家の中の温度が、二人分になっている。


 若い人が部屋を見回す。


 「こういう家、初めてです」

 「慣れます」


 少しして、鍋を持って立ち上がる。


 「ありがとうございました」

 「またどうぞ」


 戸を開けると、外の空気が戻る。


 若い人が坂を下りていく。


 縁側に戻ると、みーちゃんが言う。


 「入ったな」

 「うん」


 炬燵の布団が、少しだけ温かい。


 家の中に、

 もう一つの足跡が残った。


 冬の村は静かだが、

 こうして、

 少しずつ広がっていく。

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