第51話 二度目の冬と、先にいる自分
朝、目が覚めたとき、音がひとつあった。
遠くで除雪機の小さな唸り。
去年はなかった音だ。
障子を開けると、庭が白い。
昨夜、遅くに雪が降ったらしい。
積もりは深くないが、確かに冬の色だ。
「来たね」
「二度目じゃ」
みーちゃんは縁側の端で、雪を見ている。
タマは炬燵の中から一瞬だけ顔を出し、すぐに引っ込めた。
台所で湯を沸かす。
火の音が、いつも通りに響く。
味噌桶の蓋を開けると、匂いが落ち着いている。
一年前の雪の日。
足を出すのに、少し迷った。
今日は、迷わない。
長靴を履き、庭に出る。
雪が、きゅっと鳴る。
足跡がまっすぐに並ぶ。
「慣れた?」
「覚えた」
「違いは?」
「先に、自分がおる」
その言い方に、笑ってしまう。
祠の前まで歩く。
白い屋根が、昨日より柔らかい。
積もりは軽い。
払いすぎないように、そっと雪を落とす。
「去年は?」
「遠慮しておった」
「今は?」
「知っておる」
距離の取り方を、体が覚えている。
家に戻る。
戸を開けると、温度が迎える。
炬燵の布団を持ち上げると、熱が流れてくる。
タマが一歩だけ場所を譲る。
二度目の冬は、猫にも分かるらしい。
午前中、雪のついた縁側を拭く。
動きは無駄がない。
特別に上手になったわけではないが、焦らない。
「外、増えたな」
みーちゃんが、遠くを見て言う。
除雪の音の向こうに、見慣れない車の影がある。
「人?」
「戻った者か、来た者か」
どちらでもいいのだろう。
昼前、ツネさんが声をかける。
「たえこさん、雪どう?」
「大丈夫です」
「今年は若い人が一軒入ったよ」
その言葉が、静かに落ちる。
若い人。
去年は、自分がその枠だった。
午後、縁側で雪解けを眺める。
白は少しずつ形を変える。
光が当たる場所から溶けていく。
「二年目って、変?」
「変わるのは、主じゃ」
その通りだと思った。
夕方、雪は止む。
足跡が、朝より増えている。
この村で、誰かが動き始めている。
「先にいる感じする」
「立つ場所が決まったからじゃ」
去年は、この場所が仮だった。
今は、そうではない。
夜、灯りを落とす。
雪が、ほんの少し光る。
静かだが、止まってはいない。
二度目の冬は、
繰り返しではなかった。
同じ景色の中で、
先にいる自分を見つける季節だった。




