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第50話 同じ場所で、迎える朝

朝、まだ薄暗い時間に目が覚めた。

 冬の光は遅い。

 でも、家の中は静かに温もりを保っている。


 布団から出る。

 冷たいが、戸惑わない。

 廊下を歩く足音が、家に馴染んでいる。


 居間には炬燵。

 布団は整い、天板は落ち着いている。

 タマは中で丸くなり、

 みーちゃんは定位置にいる。


 「早いな」

 「目が覚めただけ」

 「冬の目じゃ」

 妙にしっくりくる言い方だった。


 台所へ行き、湯を沸かす。

 火の音が、家に広がる。

 味噌桶の蓋を開ける。


 匂いは、最初の日と同じなのに、

 受け取る場所が違う。


 一年前。

 ここに立ったとき、

 私は逃げてきた人だった。


 今。

 ここに立っているのは、

 迎える側だ。


 朝食を運び、炬燵に座る。

 湯気がゆっくり立ち上り、

 冬の空気に溶けていく。


 縁側の戸を少し開ける。

 外は静かだ。

 白はないが、冷えはある。


 「ここ、選んだ?」

 みーちゃんが、ぽつりと言う。

 「うん」

 迷いなく答えられた。


 「今は、逃げておらぬな」

 「逃げてない」

 それが、誇りでも宣言でもなく、

 ただの事実として言える。


 祠の前まで歩く。

 土は固いが、凍ってはいない。

 立つ場所は、分かっている。


 鈴の紐には触れない。

 知らせることはない。

 今日も、いつも通りでいい。


 家に戻ると、炬燵が待っている。

 タマはそのまま眠っている。

 みーちゃんは目を細める。


 「一年、終わったね」

 「並んだだけじゃ」

 「続く?」

 「主が立つ限り」

 短い言葉が、やさしい。


 炬燵に足を入れる。

 温もりが、ゆっくり上がってくる。


 最初の日、

 この暖かさは、逃げ場だった。


 今は、

 帰る場所だ。


 同じ家。

 同じ朝。

 同じ味噌汁。


 違うのは、

 立っている人の心だけ。


 冬は続く。

 日々も続く。

 みーちゃんも、タマも、ここにいる。


 それでいい。


 1年目は、

 静かに、

 ちゃんと、

 終わった。

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