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第49話 最初の朝と、立つ場所

朝、空気が澄みきっていた。

 昨日と同じ冷え。

 でも、光が少しだけ明るい気がする。


 障子を開けると、庭は白くない。

 雪は降らなかった。

 土が、静かに新しい年を受け止めている。


 「おはよう」

 「変わらぬな」

 みーちゃんはいつもの場所。

 タマは炬燵の中で丸くなっている。


 台所で湯を沸かす。

 火の音が、いつもよりはっきりする。

 味噌桶の蓋を開けると、匂いが落ち着いている。


 「同じ匂い」

 「続いた匂いじゃ」

 言い方が少し違うだけで、意味が深い。


 朝食を並べる。

 特別な料理はない。

 いつもの味噌汁とご飯。

 でも、椀を持つ手がしっかりしている。


 食後、縁側に出る。

 冷たい空気が、肺にすっと入る。

 痛くない。

 冬に、体が慣れている。


 「一年前、覚えてる?」

 「寒さに戸惑っておった」

 「そうだった」

 視線が、どこか落ち着かなかった。


 あの頃は、

 外へ向く目が多かった。

 戻る場所が、まだ曖昧だった。


 今は、違う。

 戸を開けても、閉めても、

 ここが拠点だと分かっている。


 祠の前まで歩く。

 土を踏む感触が、はっきりしている。

 鈴の紐は触らない。

 知らせる必要はない。


 「ここ、好き?」

 「土地は、問わぬ」

 「私は?」

 「立っておる」

 それで足りた。


 家に戻る。

 炬燵の布団が、ふくらんでいる。

 タマの寝息が、安定している。


 「同じ朝だね」

 「主が違う」

 その言葉に、胸が温かくなった。


 午後、何も特別なことはしない。

 掃除も片づけも、昨日までで十分。

 ただ、居間に座る。


 新しい年は、

 何かを変えるために来るわけではない。

 並ぶために来るのだと、

 やっと分かった気がした。


 夕方、影が伸びる。

 冷えは続く。

 でも、足の裏は揺れない。


 立つ場所は、

 もう決まっている。


 その静かな確信が、

 1年目の終わりに、

 確かにあった。

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