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第46話 年の瀬の手と、払うということ

 朝、空気が澄みきっていた。

 冷えは強いが、角がない。

 冬が落ち着いた顔をしている。


 縁側に出ると、庭は霜で白い。

 みーちゃんは祠の方角を向き、じっとしている。

 タマは炬燵から顔だけ出して様子を見ていた。


 「今日、何かする日?」

 「払う日じゃ」

 「払う?」

 「積んだものを軽くする」

 年の瀬という言葉は出ない。

 でも、意味は十分だった。


 午前中、箒を持つ。

 廊下を掃き、縁側を払い、隅に溜まった埃を集める。

 大掃除というほどではない。

 ただ、積もりを落とす。


 箒の音が、冬の家に響く。

 軽く、乾いた音。

 冷たい空気を揺らすだけで、騒がしくはない。


 「全部、落とす?」

 「落ちるものだけでよい」

 「残るのは?」

 「必要なもの」

 簡単だが、奥行きがあった。


 台所では棚を拭く。

 味噌桶の周りを布で整える。

 木の肌が、いつもよりはっきり見える。


 「世話をしておるな」

 「してるね」

 「それでよい」

 大げさではない肯定が、嬉しい。


 昼前、ツネさんが通りかかる。

 「掃除してるの?」

 「ちょっとだけ」

 「いいねぇ。払うって気持ちいいんだよ」

 同じ言葉を、別の口から聞いた。


 昼食は簡単に。

 温かさが、仕事のあとに沁みる。

 タマが足元に寄るが、邪魔はしない。


 午後、祠の前へ行く。

 落ち葉を払い、石の位置をほんの少し直す。

 鈴の紐は触れない。

 今日は、音ではない。


 「祠も、払うの?」

 「整える」

 「違うの?」

 「払うは減らす。整えるは揃える」

 違いが、すっと体に入る。


 家に戻ると、空が少し白む。

 雪は降らないが、予感がある。


 炬燵に座る。

 掃いた家の空気が、やわらかい。

 重さが、どこかへ行った。


 「軽くなった?」

 「なった」

 「何が?」

 「空気」

 それだけで、十分だった。


 夕方、影が早く落ちる。

 風鈴はない。

 代わりに、家の中の灯りがはっきりする。


 夜、灯りを落とす前に、

 玄関を一度振り返る。

 靴が揃っている。

 それだけで、整っている感じがした。


 払うということは、

 空にすることではなかった。

 軽くして、

 次を迎えることだった。


 冬の深まりの中で、

 家は静かに息を整えている。

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