第45話 戻る朝と、残る温度
朝、目がすっと覚めた。
頭は重くない。
布団の中の熱も、昨日ほど密ではない。
ゆっくり起き上がる。
足元は、ちゃんとついてくる。
少しだけ慎重になる自分がいる。
居間に出ると、炬燵がいつも通りそこにある。
布団の端が、きれいに整っていた。
誰かが直したわけではないのに、落ち着いている。
「どうじゃ」
「大丈夫」
「言い切ったな」
「うん」
声が、昨日より軽い。
台所で湯を沸かす。
火の音が、今日は頼もしい。
味噌桶に触れると、冷えの奥に丸みがある。
味噌汁を作る。
湯気が上がる。
その匂いが、やけに鮮やかに感じられた。
「こんな匂いだったっけ」
「昨日は、鼻が眠っておった」
「体って正直だね」
「体は、嘘が下手じゃ」
短い会話が、いつもより深い。
炬燵に座る。
タマが布団の中から顔を出し、こちらを見た。
前足を伸ばし、すぐに引っ込める。
様子を見ている。
「ありがとう」
タマは答えない。
でも、位置を少しだけ寄せてきた。
午前中、庭に出る。
冷えはあるが、昨日ほど強くない。
空は低く、雲がゆっくり流れている。
祠の前に立つ。
深呼吸をする。
肺に入る空気が、澄んでいる。
「倒れぬな」
「倒れない」
「無理をすれば倒れる」
「分かってる」
分かっている、と言えることが少し誇らしい。
家に戻ると、温度の差がはっきりする。
外と内の境目を、体がよく覚えている。
午後、少しだけ掃除をする。
大きなことはしない。
昨日学んだことを、急がず守る。
炬燵の布団を軽く叩く。
灰を少し整える。
動きは小さいが、無理はない。
「今日は、動く日じゃな」
「うん。でも少し」
「それでよい」
その言葉に、力を借りなくても立てる感じがした。
夕方、影が早く伸びる。
風鈴は外したまま。
冬の音は、低い。
炬燵に入り、足を伸ばす。
熱が、ちゃんと戻ってくる。
昨日より、自分の温度が勝っている。
「弱る日も、悪くないね」
「覚える日じゃ」
「何を?」
「守られ方」
その答えが、静かに胸に落ちた。
夜、灯りを落とす。
みーちゃんはいつもの場所。
タマは炬燵の中。
家の中の温度が、均一に落ち着く。
戻る朝は、
ただ元に戻るのではなかった。
残るものが、
少しだけ増えていた。




