第44話 少し熱のある日と、見張る背中
朝、目を覚ますと、頭が重かった。
寒いのに、布団の中がぬるい。
嫌な感じではないが、いつもと違う。
起き上がると、足元が少し遅れる。
立てないわけではない。
ただ、確かめる時間が要った。
「今日は、休む日じゃな」
みーちゃんが、居間の端から言う。
いつ来たのかは、分からない。
でも、いる。
「熱、ある?」
「少し」
「少しは、あるのうちじゃ」
言い切りが、ありがたかった。
炬燵に入る。
布団の重みが、いつもより心地いい。
タマが中から場所を譲らず、少し端に追いやられる。
今は、それでいい。
台所に行こうとして、やめる。
火を使う気になれない。
代わりに、ポットの湯を注ぐ。
湯気が、顔にやさしい。
「味噌汁、作らなくていい?」
「今日は、湯でよい」
「それ、神様判断?」
「体判断じゃ」
少し笑ってしまった。
外は曇り。
白くなる気配はない。
冷えだけが、静かに続いている。
午前中、何もしない。
本も開かない。
目を閉じ、音を聞く。
炬燵の中で、タマが寝返りを打つ。
小さな振動が、布団を伝う。
みーちゃんは、動かない。
「ずっと、そこ?」
「見張りじゃ」
「何を?」
「体と、眠り」
それ以上は、聞かなくてよかった。
昼前、少し汗をかく。
布団をめくり、空気を入れる。
動作が遅いことを、責めなくていい。
「楽になった?」
「うん、少し」
「熱は、役目を果たしておる」
「熱にも役目あるの?」
「異物を出し、止めさせる」
止めさせる。
確かに、今は立ち止まっている。
午後、眠ったり、起きたり。
時間の区切りが、曖昧になる。
それでも、不安はなかった。
気づくと、みーちゃんが近い位置にいる。
普段より半歩、近い。
触れないが、離れもしない。
「近くない?」
「今日は、風が弱い」
意味は分からない。
でも、理由として十分だった。
夕方、頭の重さが引く。
体の境目が、戻ってくる。
外の冷えを、ちゃんと感じられる。
「もう、大丈夫そう」
「無理は、明日」
「明日?」
「今日は、休む」
正しい順番だと思った。
夜、灯りを落とす。
炬燵の中で、タマが伸びをする。
みーちゃんは、変わらない場所にいる。
少し弱る日は、
守ることより、
守られることを思い出す。
そのことが、
不思議と心地よい夜だった。




