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第43話 外の冷えと、内側の灯り

朝、戸の向こうが白っぽかった。

 夜の間に冷えが深まり、空気が固くなっている。

 雪は降っていない。

 ただ、冷えがそこにある。


 炬燵の布団に手を入れる。

 まだ残っている温もりが、指を迎えた。

 家の中と外とで、境目ができている。


 「今日は冷えるね」

 「芯まで来る日じゃ」

 みーちゃんは居間の隅で丸くなり、耳だけ動かしている。

 タマは布団の中で、動く気配がない。


 台所で湯を沸かす。

 湯気が立ち上るまでに、少し時間がかかる。

 火の力が、冬の空気に負けないよう、ゆっくり強める。


 味噌汁を作る。

 具は少なめ。

 温度を保つほうを選ぶ。


 朝食を終え、炬燵に戻る。

 布団の重みが、落ち着きを連れてくる。

 タマが一度だけ顔を出し、周囲を見て、また潜った。


 「完全に生活に組み込まれたね」

 返事はない。

 丸くなった背中が、答えだった。


 午前中、外に出る。

 空気が頬に刺さる。

 息が白く、すぐに散る。

 家の中の温度が、遠くなる。


 祠の前で立ち止まる。

 手を合わせるほどではない。

 ただ、立つ。

 冷えの中で、形が崩れない場所だ。


 「寒い?」

 「寒さは、均すものじゃ」

 「均す?」

 「強い所と、弱い所を、同じにする」

 分かったようで、分からない。

 でも、ここに立つと落ち着く理由は伝わってきた。


 家に戻る。

 戸を開けた瞬間、空気が変わる。

 温度だけではない。

 音が、柔らかい。


 「帰ってきた感じする」

 「内側に灯りがある」

 「火?」

 「人の灯りじゃ」

 言葉にされると、少し照れる。


 午後、炬燵で針仕事をする。

 祖母の手袋の、ほどけた糸を直す。

 針を通すたび、時間がゆっくり動く。


 タマが糸に反応し、前足を伸ばす。

 届かない距離で、諦めた。

 猫も、触れない距離を選ぶ。


 夕方、外はさらに冷える。

 影が濃くなり、風が音を持つ。

 風鈴はない。

 冬は、鳴らさない。


 夜、灯りを落とす。

 炬燵の中で、タマの寝息が聞こえる。

 みーちゃんは、居間の端で目を閉じた。


 外は冷え続ける。

 でも、内側の灯りは消えない。


 冬は、閉じる季節だと思っていた。

 実際は、

 内側を、はっきりさせる季節だった。


 そう思いながら、

 炬燵に足を預け、

 静かな夜を迎えた。

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