第41話 こたつを出す日と、同じ朝
家の中が暗かった。
外はもう明るいはずなのに、光がゆっくりしか入ってこない。
冬の朝の速度だ。
押し入れを開ける。
奥にしまっていた布団と、折りたたまれた天板。
重さは知っているのに、手応えが少し違う。
「出す?」
「出す日じゃな」
みーちゃんは、もう居間に来ていた。
祠の気配を纏ったまま、家の中にいる。
炬燵を組み立てる。
脚を開き、天板を置き、布団を広げる。
空気が一気に変わった。
部屋が、腰を下ろす。
スイッチは、まだ入れない。
まず、形だけを整える。
「去年も、こうだったっけ」
「似ておる」
「同じじゃない?」
「同じではない」
その断言に、迷いはなかった。
台所で湯を沸かす。
火の音が、朝の静けさに合う。
味噌桶に触れると、きゅっと締まった温度。
冬の匂いが、ここにある。
朝食を運び、炬燵のそばに置く。
まだ電気は入れない。
それでも、そこに集まる理由は十分だった。
タマが一番に入る。
布団を少しだけ持ち上げ、様子を見る。
中が寒いと分かると、すぐに出た。
判断が早い。
「まだだね」
返事はない。
タマは日向に戻った。
スイッチを入れる。
小さな音。
ゆっくりと、温度が上がる。
みーちゃんが布団の端に座る。
中には入らない。
熱の届く距離を、正確に選んでいる。
「去年は、驚いてた」
「知らぬものは、距離を測る」
「今は?」
「知っておる」
それだけで、安心できた。
外を見る。
まだ雪はない。
でも、白が来る場所は分かる。
炬燵に入り、息をつく。
暖かさが、足から上がってくる。
逃げ込む感じは、もうない。
「この冬も、ここだね」
「最初から、そうしておる」
「私は、違った」
「今は?」
「今は……戻ってきた感じ」
戻る、という言葉が自然に出た。
みーちゃんは何も言わない。
ただ、目を細めた。
昼前、ツネさんが通りかかり、
炬燵を見て、軽くうなずいた。
声はかけない。
それで十分だった。
風鈴は外したまま。
鳴らす季節ではない。
代わりに、炬燵の中で布団が鳴る。
同じ朝。
同じ家。
同じ準備。
でも、立つ場所は違う。
冬は、また来た。
今度は、
迎える側だった。




