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第39話 溶け跡と、続く足並み

朝、窓の外は白と茶がまだらに混ざっていた。

 昨日の雪が、同じ場所に留まらず、少しずつ形を変えている。

 音は戻らない。

 ただ、重みだけが残っていた。


 縁側に出ると、板の端に水が集まっている。

 指で触れると冷たい。

 みーちゃんは祠の方角を向き、座ったまま動かない。

 タマは外を一瞥してから、日向を選んだ。


 「溶けてるね」

 「溶け跡は、道になる」

 「昨日の足跡?」

 「それも。ほかも」

 ほか、という言葉が広かった。


 台所で湯を沸かす。

 火の音が、今日は少し軽い。

 味噌桶に触れると、昨日より指が動く。

 冷えが、芯から抜け始めている。


 朝食を終え、外を見る。

 道に、いくつか足跡が増えていた。

 雪の上に、別の生活の気配が重なる。


 「みんな、動き出したね」

 「最初は、様子を見る」

 「昨日は?」

 「立ち止まる日じゃ」

 その切り分けが、分かる気がした。


 午前中、軒下を整える。

 落ちた雪を払うだけ。

 掃くほどではない。

 残すところは、残す。


 タマが足元に来て、濡れた板を避ける。

 一段高い場所を選び、丸くなった。

 猫は、溶け跡を読める。


 昼前、ツネさんが通りかかる。

 「昨日は積もったねぇ」

 「朝、きれいでした」

 「歩ける道ができたら、冬だよ」

 言い切りが、頼もしい。


 午後、庭に出る。

 白は少なくなったが、消えてはいない。

 土の色が、顔を出す場所と、出さない場所。

 境目が、はっきりしてきた。


 祠の前に立つ。

 足元は濡れている。

 鈴の紐は、触らない。

 今日は知らせることがない。


 「昨日、行ったね」

 「行った」

 「今日も?」

 「今日は、続き」

 続き、という言葉が、静かだった。


 夕方、空が早く色を落とす。

 影が増え、温度が下がる。

 でも、凍る前の柔らかさがある。


 「冬って、進むんだね」

 「進むというより、並ぶ」

 「並ぶ?」

 「昨日と今日が、横に立つ」

 振り返ると、昨日の足跡がまだ見える。


 夜、灯りを落とす。

 囲炉裏は起こさない。

 今日は、余熱で足りた。


 外では、水が静かに流れる音。

 溶けた雪が、行き先を見つけている。


 溶け跡は、消えない。

 形を変え、

 歩き方を教える。


 白い日も、

 白でない日も、

 足並みは続いていく。


 そのことが、

 少しだけ、心強かった。

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