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第6話 ダークエルフを召喚する

 慌てて、そこから離れると、さらに輝き出した。 読書を嗜んでいたメイドが流石にこの状況に気づいたのか、「何をしているの?!」と僕の所に近寄った。


 僕はメイドに近づかないように言って、少し距離を置くと、目をつぶりたくなるほどの閃光がきらめいた。一瞬目を閉じ、恐る恐る開けてみると、魔法陣の上に人が立っていた。


「おぉっ!」


 思わず驚きの声を上げて、駆け寄った。その人が女性なのは身体つきで分かった。


 服装は革の短パンと半袖のジャケット、胴体にさらしみたいな白い布を巻きつけていた。それもあってか、クビレのいいへそ出しが強調されていた。


 種族はダークエルフだろうか。日焼けした肌からそう感じた。顔立ちは整っていて、耳は予想通り尖っていた。髪は銀色で、ポニーテールだった。武器らしきものは持っていなかった。それに立ったまま目をつぶっていた。


 一通り召喚されたエルフを見た僕は、恐る恐る声をかけてみた。


「もしもーし、もしもし……起きてくださーい!」


 すると、ウーンという声が聞こえた後、瞼が動き、真紅の瞳が姿を現した。ダークエルフは辺りをキョロキョロ見渡し、僕とメイドの顔を交互に見た。


「ここはどこなんだ?」


 顔をしかめながら聞いてきた。僕は「ここは王国、マークシャー家の庭です。ようこそ、お越し下さりました。ダークエルフ様」と丁重な物言いで深く頭を下げた。


 ダークエルフは目を見張って、「もしかして、お前がアタシを召喚したのか?」と聞いてきた。


 僕はそうですと言うと、ダークエルフは「ずいぶんませたガキだな」と溜め息をつき、チラッと僕が書いた魔法陣を見た。


「おいおい。今時、魔法陣かよ」

「え? 他にも方法があるんですか?」

「あぁ、普通に馬車でアタシのようなエルフが住んでいる国に行けるぞ。

 召喚魔法はアタシらが鎖国した時代に、やらしい貴族とかが秘密裏にエルフと密会したい時にやった方法だ。

 本当に召喚されるのなんて何百年ぶりだよ」


 そうなんだ。まさか非合法なやり方だったとは。僕の家の本棚にあるという事は、もしかして僕の父は――いや、『何百年ぶり』とか言っていたし、きっと悪い先祖がやったのだろう。


 僕はコホンと咳払いをすると、「あの……ごめんなさい」と謝った。ダークエルフは「まぁ、お前はまだ子供だから許してやるよ」と頬をかいた。


「……で、何でアタシを召喚したんだ?」

「実は……」


 僕はアイツの事は言わずに、自分と一緒に居てくれる人が欲しくて召喚した事を話すと、ダークエルフは「まだ乳離れできてないのか」と呆れた眼で見ていた。


 僕はグゥの音も出なかった。すると、ダークエルフは溜め息を吐くと、「まぁ、いいや。どうせあの国にいてもつまんないだけだから、数年くらいは一緒にいてやるよ」と言って、革の手袋を外した。


「ビーラだ」

「カースです」


 僕はビーラと握手をした。その様子をメイドはあんぐりと口を開けて見ていた。



 新しい住民に、母は驚いていた。そして、僕が図書室から本を持ち出して、勝手に召喚させた事を怒った。


 僕は膝を折り曲げてチョコンとカーペット上に座りながら説教を聞いていた。ビーラは腕を組みながら知らん顔をしていた。母はチラッと彼女を見ると、「それで契約はしたの?」と尋ねた。


 ビーラは僕の方を見た後、「口約束はした。数年はここにいるつもりだけど、嫌ならアタシは帰る」とさっきの握手とは真逆の事を言っていた。


(もしかして、内心嫌だったのかな)


 そう感じた僕は俯いてしまった。僕の心情を察したのか、ビーラは「まぁ、もしここに住まわせてくれるなら、エルーラの美酒を定期的に届けてやる」と言った。


 これを聞いた母は「エルーラの美酒ですって?!」と目の色を変えた。美酒――ビーラが住んでいた国エルーラでしか採れない貴重な果実がある。それをふんだんに使い熟成させた酒を飲むと、老いた身体もたちまち若返るらしい。


 この夢のような酒は太古の昔から、エルフと人間との間で数多く取り引きされてきた。だが、ある時代に、それを独占しようとして、戦争を仕掛けた愚か者がいた。そのため、エルーラは鎖国し、一時入手困難な状況になった。


 現在は開国されて、美酒は王族や一部貴族のみしか売らないという決まりになっている――という歴史を家庭教師から教わったのを思い出した。


 母はさっきまでの態度とは打って変わって、「ぜ、ぜひ! うちの家に居候して構いません!」とビーラの手を取って、ギュッと握りしめた。


 ビーラはここまでの反応は予測できなかったのか、「あ、あぁ……」と若干引き気味に握手に応じていた。



 ビーラは約束通り、エルーラから美酒を届けてくれた。彼女は瞬間移動の魔法が使えるらしく、住める事が決まった途端、その魔法を唱えて国に帰った。そして、赤い瓶を持って再び現れた。


「ほら、約束のものだ」


 ビーラがポーンと投げると、母は犬みたいに口でキャッチした。尻尾を振るかのように喜びを表現すると、コルクを爪に差して外し、グラスに注がずにラッパ飲みした。


 あまりの飲みっぷりに、ビーラは「すげぇ」とこぼしていた。そして、プハッと口を離した。すると、母の身体が光り出し、みるみるうちに姿が変わった。僕が赤ちゃんの時よりも肌艶が良くなり、全ての肉が引き締まっていた。


「か、鏡!」


 母も自分の変化が分かったのか、すぐに近くにあった手鏡を手に取った。


「こ、これは……18歳の時の私じゃない! 最高! ありがとう!」


 母は今までにないくらいのテンションで、ビーラに抱きついていた。ビーラは「喜んでもらえて、光栄だよ」と若干引いたような顔で言った。


 僕はお姉ちゃんになった母を呆気にとられて見ていた。

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