第44話 こんな結末は……
「うわぁあああああ!!!!」
思わず叫びながら仰け反ってしまった。けっこう力強くしてしまったのか、そのまま倒れてしまった。背中越しにガシャンという衝撃が伝わった。
どうにか自分で起こそうとして首だけを動かしていると、ほんの少し車輪らしき物がクルクル回っているのが見えた。どうやら僕は車椅子に座らされているらしい。
天井は真っ白で何もない――そんな事を考えつつも、全く身動きの出来ない状況にもどかしさを覚えた。
すると、勝手に起き上がり、再び母と目があった。背けたいけど、それをしてしまったら襲われるかもしれないと思い、充血した眼で見つめた。
「シシシッ!」
おかっぱ怨霊の笑い声が聞こえた後、またグレイ怨霊達による演奏が始まった。今度はクラシックのようなバラードのような物静かで刹那い気持ちにさせる音色が流れた。
すると、母が瞬きをしたかと思えば、「私は罪深き死者の民〜♪」といきなり歌い始めたのだ。
地位と名誉を手に入れるため
妹と旦那殺し赤子奪い
我が子として育てました
だけど欲望に溺れました
我が子をなおざりにして
地下室で毒盛られる
あまりにも唐突な事だったので、口を半開きにしていると、彼女達がクルッと移動し始め、母の首からカローナの首に代わった。
私は罪深き死者の民
母や妹達を幸せにするため
誠実さの盾と正義の剣で
一領主になりました
だけど愛しの弟に
本当のことを話せなかった
もっと早く打ち明けていれば
カローナもまた同様に歌うと、次はキャーラの首と見つめ合った。
私は罪深き死者の民
自分が一番幸せになるために
家族の事を放ったらかして
ついに学園長になりました
だけど騙されました
校舎は魔物だった
私はそいつに命を捧げました
そして、最後はコナだった。
私は罪深き死者の民
愛すべき人を守るため
悪魔を殺す力を手に入れて
革命を起こしました
だけど実は違いました
悪魔はカラスだった
カラスは姉だった
姉の名は……
コナの最後の部分は何故かうまく聞き取れなかった。まるで聞かすまいとノイズが僕の脳内に響き渡った。ついに鼓膜が完全に壊れてしまったのだろうかと思っていたが、四人が一斉に歌い出すと急にノイズが消えた。
粛清を
粛清を
粛清を
粛清を
呪われた世界に粛清を
粛清を
粛清を
粛清を
粛清を
粛清 粛清
粛清を
母や姉の首達は『粛清』という言葉を連呼しながら僕の周りをグルグル回っていた。すると、ガシャンと僕の腕の拘束が解除された。
かと思ったら、手にいつの間にか拳銃を持っていた。
(拳銃?)
この世界に拳銃なんかある訳がない。奴らが用意したんだ。
でも、何のために?
「シシシッ!」
おかっぱ怨霊の笑い声が聞こえたかと思うと、勝手に拳銃を掴んで構えていた。標準先は彼女達の頭だった。嫌な予感がした。
「やめろ……」
思わず口から漏れる。考えたくもない。これからする事は、絶対にしたくない。だが、引き金に指がかかる。
「やめろ、やだ、いやだ……」
抵抗しようとするが、手が勝手に引き金をひいた。パンッと銃声が鳴り、母の片目に穴があいた。
「ああああああああああああ!!!! やだああああああああ!!!!」
僕の手は暴走を続けた。彼女達の生首は的のようにお盆の上に置かれたまま銃口と同じ高さでキープしたまま移動していた。抵抗しようとした。しようとしたんだ。したんだけど、できない。どうしてなんだ。止まってくれ、僕の手。畜生、あいつが、あのおかっぱが僕の手を操っているんだ。
あぁ、カローナの頭の肉片が吹き飛び、コナの鼻が欠けている。死んでいるはずなのに、僕が撃ったら、まるで僕が彼女達を殺したみたいになるじゃないか。
止まってくれ、僕の手。お願いだから、止まってくれ。僕の願いも虚しく僕の手は撃ち続けた。もうとっくに銃弾は切れているはずなのに。どうやら無限に出るらしい。だから、終わらない。僕の家族の頭がグチャグチャになるまで。僕の乱射は止まらなかった。
彼女達は撃たれてもなお、歌い続けた。段々破損が激しくなって、呂律が回っていなかったり、声帯がおかしくなったりした。
それを目にし、耳で聞く度に僕は腕を削ぎ落としたい衝動に駆られていた。頭は固定されているのか、どんなにあたっても地面に落ちる事はなかった。
そのまま落ちて、撃つ的がなくなる事をどれほど願った事か。血や肉塊が僕の方に飛んできた。それが目に入ろうものなら悶絶するくらい痛かったが、手は止めないし瞼も閉じれず、口から血が流れるほど食いしばって耐えた。
やがて、四つのお盆には原型がなくなるくらいメチャクチャになった彼女達の頭があった。ようやく撃つのを止めてくれた。
力が抜けたような溜め息を吐く。視界がぼやけている。瞼が腫れ上がっているのかと思うくらい痛い。あぁ、何で僕はこんな目にあっているんだ。
そう嘆いていると、また演奏が始まった。今度はグレイ型の怨霊達が歌い出した。
僕は罪深き死者の民
この世に生まれてはいけない子
前世からの呪いが纏わりついている
それは全てカラスの仕業
だから望みも希望もない
僕は永遠に苦しみ続けるんだ
呪いが続く限り
今のは僕に向けられた歌なのだろうか。『僕は』って言ったからそうなのだろうか。
何だか不穏な歌だったな――と思っていると、また手が勝手に動き出した。今度は口も動かされ、銃口が僕の口内に侵入してきた。
やめろ。やめてくれ。また僕を殺すつもりなのか。ウーウーと呻いた所で、何か変わる訳がなかった。
グレイ型の怨霊達が「粛清を」と連呼しているのが、僕にはまるでブーイングしているように聞こえた。
指が引き金に――あぁ、死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死――パーーーーン!!!
完




