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第42話 逃げなくちゃ

 僕は必死に逃げた。背後から怨霊達の地獄の底から轟いているような呻き声が迫ってきている。おかっぱ怨霊の奇怪な笑い声も聞こえてきた。とにかく逃げる事だけを考えた。目の前に曲がり角があれば曲がり、下へと続く階段があれば降りた。


 だが、校舎は異常に広く、土地勘のない僕はあっという間に迷ってしまった。いつまで経っても出口らしき所は見られなかった。


(あぁ、くそっ!)


 心の中で舌打ちした時、ふと自分の手首にキャーラから貰ったハンカチを巻いている事を思い出した。


 これを使えば村まで瞬間移動できる――と思って腕を見てみると、あるはずのハンカチが無くなっていた。


「……え? え?」


 走りながら探してみるが、見つからない。何かの拍子に外れて落としてしまったのだろう。あぁ、キャーラの形見を失くすなんて、弟失格だ。


 怨霊達は容赦なく追いかけてくる。必死に脚を動かして、動かして、動かした――その時。


「うわっ!」

「きゃっ!」


 何かとぶつかってしまった。僕は尻餅をつき、正面を見ると切れ長の目をした女性が同じような体勢をしていた。


「イタタ……」


 切れ長目の女性は僕を見ると、「あなた! どうしてこんな所にいるんですか?! まだ下校時刻は先ですよ!」と怒鳴ってきた。茶色のローブからして、教員なのだろう。


「ごめんなさい! ごめんなさい!」


 僕は立ち上がり、必死に謝った。だが、切れ長目の女性は許してくれなかった。


「赤のローブという事は新入生ですか……入学初日早々、なんて不良な……これは学園長に知らせないといけませんね」


 彼女にお説教をされている間も、気が気でなかった。背後から怨霊達の声が迫ってきているのだ。このままだと奴らに捕まってしまう。


「ごめんなさい! ちょっと急いでいますので!」


 僕はそう言って立ち去ろうとしたが、彼女は「まだ話は終わってないわよ!」と腕を掴んできた。


「離してください!」

「教頭に向かって何たる口の聞き方……これは担任の先生にも問題があるわ。クラスはどこ?」

「離してください! 離してください!」

「うるさいわね。自業自得よ。あなたは学園長に言って、即退学処分の手続きをしてもらうから……」

「離してください! 離してください! 離して……」


 僕が必死に叫ぶが、教頭と名乗っていた女性はギュッと掴んだまま離さなかった。その背後に不気味な手が見えた。教頭の頭から出てきたのは、血塗れで鼻のない怨霊だった。


「あーーーー」


 鼻のない怨霊は僕を見ると、嬉しそうに手を伸ばしてきた。


「ヒィイイイイイイ!!!」


 僕はこれでもかというくらい奇声を上げて離そうとジタバタした。これに教頭は不審に思ったのか、「どうしたの?」と眉間に皺を寄せていた。奴の枝のように細い腕が僕の目の前まで来ていた。


「あああああああああ!!!」


 僕は逃げたい一心で、捕まれた腕を振り回した。さすがの教頭も「ねぇ、ちょ、ちょっとやめなさい! 何でそんなに怯えているの?!」と動揺していた。


 僕は自分の腕を引き寄せ、教頭の手を噛んだ。


「痛っ!」


 教頭はすぐさま手を離し、僕はネズミみたいに走った。


「あああああああああああああああ!!!」


 鼻のない怨霊は後少しで逃したのが悔しいのか、廊下中に奴の絶叫が響き渡った。僕は気にせず走った。走って、走って、階段を降り――ようとしたが、脚を踏み外してしまった。


「あっ……」


 あっという間の出来事だった。宙で一回転した後、ボールみたいにゴロゴロ転げ落ちた。そして、踊り場の壁に激突してしまった。 視界が揺らいでいる。船酔いしたかのような吐き気が襲った。立ち上がろうとしたが、身体の節々がズキズキしてうまく動けなかった。


「シシシッ!」


 あの奇怪な笑い声が故障した鼓膜にキャッチした。ぼやけた視界におかっぱ怨霊が立っていた。奴の背後には無数の腕が出ていた。


(あぁ、終わった)


 僕は死を悟ったと同時に、その無数の手達が襲い掛かってきた。



 目を開けると、身体が動かなかった。辺りを見渡すと、ライトで照らされたと思われる光の中に僕の影が写っていた。


 よく見ると、何かに座っていた。右を見てみる。肘掛けと右腕が革のベルトで固定されていた。


 左を見てみる。右と同じだった。どうやら僕は肘掛け椅子に拘束されているらしい。


 僕は身体を揺らしてみた。ギシギシと鈍い音が鳴るだけで、動く気配がなかった。それにしても目が痛い。瞬きしようとしても、何故かできなかった。


 まるで瞼が張り付いているみたいだ。瞬きが出来ないせいで、目がドンドン乾燥していく。


 この状態に僕の心臓は高鳴り、大きく身体を揺らしたり腕を動かそうとしたりして、脱出を試みようとした。


 だが、どんなに頑張っても、外れる事はなかった。


「あぁ、あぁ……くそ……」


 苛立ちを隠せず、口からこぼれた。すると、いきなり真っ暗になった。暗闇から奴らが迫ってくると直感し、大声を上げて撃退しようとした。


 パッと目の前にスポットライトみたいに円形の光が現れた。そこにはおかっぱ怨霊が浮かんでいた。


「シシシッ!」


 奴が例のキツネ風のポーズをした手で右腕を上げた。すると、僕から見て左上から無数のスポットライトが照らされ、光の道が出来た。


 左腕を上げたら同様に道ができた。一体何が起こるのか、予想ができず、心臓が破裂しそうなぐらい鼓動していた。


 おかっぱ怨霊はまた腕を動かした。スポットライトが右往左往している。そして、腕を止めると、暗闇に戻った。少し経って、今度は四つだけ光が闇に照らされた。


 そこには、母とカローナとキャーラとコナが立っていた。不思議な事に、みんな生きているかのように綺麗な姿をしていた。

 

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