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第30話 長女の帰還

 ケーナと店に戻り、食事を済ませた時だっった。


「た、大変だぁ! 誰か来ているぞぉ!」


 突然男の叫び声が聞こえてきたのだ。僕とケーナは急いで店から出ると、他の人達も聞こえたのか、次々と同じ方向に走って行った。


 僕は何だか嫌な予感がして、自ずと走るスピードが早くなった。途中何度か転びそうになりながらも走ると、大勢の人が群がっていた。


 人混みを掻き分けて見ると、橋の近くで一人の男が(ひざまず)いていた。格好から察するに騎士だった。まるで獣道を通ってきたかのようにボロボロで、鎧も所々破損していた。


 何人かの領民達が彼の手当てをしながら側に付いていた。野次馬は「なんだ。なんだ」「どうしたんだ?」と気になっている様子で、彼を見ていた。


 騎士が人の助けを借りながら立ち上がると、僕達の方を見た。


「騎士団長が亡くなられた」


 騎士が開口一番に放った一言は、まるで音を失ってしまったかのように、誰も動かず喋らなかった。僕も今の言葉が信じられなかった。いや、信じたくはなかった。


 騎士団長――カローナが死んだ?

 あんなに強かった姉さんが?


 嘘だ。きっと聞き間違いだ。それは領民達も同じ思いだったのか、中年おばさんの領民が「騎士団長って、カローナ領主様のこと?」とうわ言のように聞いてきた。


 騎士は静かにコクンと頷いた。


「嘘吐くな!」


 男の訓練生が騎士に詰め寄った。


「領主様は数々の偉業を成し遂げた御方なんだぞ?! 死ぬ訳がねぇ!」

「じゃあ、遺体を見るか?! 半分潰された顔を! 今、王都の騎士と共に運んできているから、届き次第、見せてやるよ!」


 騎士らしからぬ言動に訓練生は狼狽(うろた)えた。騎士はハッとなって、「すまない……取り乱した」と膝から崩れ落ちた。


「俺だって信じたくはないさ。団長は最前線に立って俺達、騎士を導いてくれた。常に気を配って、怪我も治療してくれた。

 けど、けど……暗殺者を追い込んだ時に罠にはまって……団長は俺達を真っ先に逃したら爆発に……」


 騎士の声は次第に弱まってきたが、急に怒りが湧いてきたのか、地面を思いっきりドンと叩いた。


「畜生! なんで俺だけ……俺だけが生き残ったんだ! 俺が死ねば団長は死ぬ事はなかったんだ! 畜生畜生……」


 大粒の涙を流して悔しがる騎士達に、領民達も同調したのか、大泣きしたり啜り泣く声が聞こえてきた。僕は夢を見ているような心地で、「コナはどうなったんですか?」と聞いた。


 すると、騎士は「コナ? コナ? あぁ、団長の妹さんか。彼女は信じられないくらい強くてな。

 鳥のように空を飛びながら弓の雨を降らしたり火薬を投げたりして王都はメチャクチャだよ……それに何の魔法を使ったが知らないが……」

「団長のご帰還だーーー!!!」


 突然騎士の話が聞こえなくなるぐらい声量が聞こえた。騎士の背後に、金色の鎧を着た者達が行進していた。


 あれは確か王都の騎士しか装備する事が許されない物。という事は、王都から来たのか?


「ほら、カローナ団長のご帰還だ!」

「邪魔だ、邪魔だ! 道を開けい!」


 王都の騎士達は野次馬達に道を開けるように促した。僕やケーナもすぐに移動した。


 領民達もすぐに移動し、まるでパレードみたいに左右に人の道ができた。その真ん中を通るように、まず馬に乗った騎士が先導するように歩いた。


 (かぶと)にトサカみたいなのが付いているので王都の騎士の中では一番偉いのだろう。僕はソワソワしながら待っていた。


 王都の騎士達は『団長のご帰還』と言っていた。つまり、カローナは生きているんだ。


 あのボロボロの騎士が見たのは別人で、実は王都の騎士達に助けられていたんだ。領民達もそう思っているのか、固唾を呑んでカローナの帰りを待っていた。


 でも、何人過ぎても彼女の姿が見えなかった。途中、荷馬車の中に白いシーツに包まれた物体が何個か乗せているのを見たが、支援物資か何かだと言い聞かせた。


 そうこうしているうちに、最後尾だと思われる騎士が橋を渡り終えてしまった。ボロボロの騎士がグッと感情を堪えているかのような顔をして敬礼していた。


「あれ? 団長は?」

「団長はどこなんだ?」


 領民達がヒソヒソと話した瞬間、騎士がボロボロ涙をこぼしたかと思えば、(ひざまず)いて頭を掻きむしりながら叫んだ。


「うあああああああ!!! 全部死神のせいだ! あの(からす)の頭をした死神のせいだ! 俺は見たんだ! 戦場に奴が立って……」


 騎士の叫びに王都の騎士数人が駆けつけて、彼を介護するように連れて行った。騎士は「アイツだ……アイツだ……」と呪文のようにブツブツ呟いていた。


「気の毒だな」


 すると、背後から声が聞こえた。振り返ると、さっき先頭で騎士達の列を率いていたトサカ(かぶと)の男だった。


「団長を差し置いて自分だけ生き残るのは騎士としてどれほど屈辱的か……そのプレッシャーに耐えられなくなって、精神を壊してしまったのだろう」


 その男は誰かに聞かせるかのような小声でポツリと言った後、少し道の真ん中に立った。そして、両腕を広げて言った。


「カーメラーの領民達よ! 私は王都騎士団長のマールであーる!

 カローナ(きょう)の急死は胸を痛むばかりだ。これからさらに国に貢献できる数少ない逸材だったのに……だが、しかし! 安心したまえ!

 このマール(きょう)が新たなカーメラーの領主として、前領主に負けないくらいこの地を豊かにしようと思っている……」

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