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第18話 新たな怨霊

 個室の扉の二つが開いていたのだ。僕が来る前、全部閉まっていたはずなのに。


 でも、どこを見渡してもヤツはいなかった。それもそうか。


 だって、ヤツはビーラによって倒されたんだもの。ビーラが自分を犠牲にして放った大魔法で、カニバードと怨霊ごと吹っ飛んだ。


 だからこそ、このように一人で行動できるのだ。僕は気のせいだと思って、ハンカチで手を拭いた。チラッと鏡を見た。


 ポトッとハンカチを落としてしまった。写っていたのは自分ではなく、女の子だった。


 赤のサスペンダースカートをはいていて、おかっぱ頭をしていたので、僕の目にはその子がまるでトイレの花子さんのような印象を受けた。


 僕の歯がガタガタ震えていた。その女の子の両眼はなく、窪んでいたからだ。もしかして、ヤツが化けているのだろうか。


 だとしても、雰囲気変わりすぎていないか?


 僕がそう思っていると、ソイツは「バァ」と無数の尖った歯を見せたかと思えば、鏡から手が出てきた。


 瞬時に身の危険を感じた僕は慌てて外に出ようとした。が、鍵が掛っていて開けられなかった。


 個室の扉よりも頑丈に作られているから重くて開けられないという訳ではなさそうだった。


「開けてください! 誰か! 助けて!」


 僕はドンドン叩いて大声を上げるが、何の反応もなかった。


「シシシシシシ!!」


 背後からゾクッとするような笑い声が聞こえたので、反射的にバッと振り向いた。ソイツは片手をキツネみたいな形をした。


 すると、個室のドアが勝手に浮かんだのだ。それがポーンと僕の方に向かっていた。


 慌てて横に避けた直後、僕がいた所にドアが激突し激しい音を立てて粉砕した。


「シシシ! シシシ!」


 ソイツはまた今度は両手で人差し指と小指を突き出すポーズをした。


――ガシャーーン!!


 鏡が全て割れたかと思えば、その破片が宙を舞った。


「シシシ!」


 ソイツは手のポーズをそのままに腕を振るった。破片が僕に襲い掛かってきた。とっさに顔を腕でおおって守ったが、無数の破片が腕に突き刺さってしまった。


「クッ……」


 このままだと一方的にやられるだけだ。何か手は――そうだ。光魔法。ビーラが唱えた呪文を思い出してみよう。


「えっと、ぴ、ぴ、ピカーラ!」


 だけど、何も起きなかった。呪文を間違えたのだろうか。


「ピラ! ピカ! ピアーラ!」


 何度も唱えても、フラッシュすら起きなかった。


 どうして?


 ビーラはすぐに出てきたのに。魔法が不発な事に、ソイツは嘲るように(わら)うと、便器を浮遊させてきた。


 嘘でしょ。万が一あたったら色んな意味で悲惨な事になる。僕は傷だらけの腕を無理やりにでも動かして立ち上がろうとした。


 が、ズキズキ来る痛みに耐えかねて滑り落ちるように倒れてしまった。あぁ、ここまでか――と思った時。


――チュパチュパチュパチュパチュパ


 なんか聞き覚えのある物音が聞こえてきた。この音はソイツの耳にも届いているのだろう、浮遊させたまま様子を伺っていた。


――チュパチュパチュパチュパチュパ


 音はどんどん近づいてきたかと思いきや、ドアがいきなり吹っ飛んだ。


「チュパ! チュパ!」


 現れたのは、おしゃぶりを付けたメローナだった。彼女はまだおしゃぶりを愛用していたのだ。


 すると、ソイツは一瞬で姿を消し、浮遊力を失った便器は僕の方に落ちてきた。


「チュパパ!!」


 あっという間にメローナに抱かれ、トイレの外に出た。ガシャンと便器が砕ける音が聞こえたと同時に、とても不衛生な光景が広がっていた。


「あ、ありがとう」

「チュパ……!!」


 メローナはすぐにおしゃぶりを外すと、僕に咥えさせた。久しぶりのおしゃぶりに困惑していたが、帰って来たかのような心地がした。


 大人しくチュパチュパしていると、騒ぎを聞きつけたマローナ達がやって来た。


「一体何が起き――っ!!」


 マローナは惨憺たるトイレに言葉を言葉を無くしていた。


「マローナ! それよりもカースの治療を!」


 メローナに言われてハッとしたマローナは僕の酷い姿に目を見張っていたが、すぐに回復魔法を唱えて傷を癒やしてくれた。


「何者かが裁判所に侵入したと見られる! 各兵、中と外を隈なく調べろ!」


 マローナはすぐに団長の顔になり、部下達に命令した。騎士達はハッと敬礼すると、ドタバタと走って行ってしまった。


「どうして……?」


 マローナは独り言のように呟いた後、親指の爪を噛んだ。

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