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第10話 本当のことを打ち明ける

 部屋にちょうど着替えがあったので、下着と寝間着を交換すると、汚れた床を掃除した。


「なるほど。トイレに行きたかったのか。だったら、アタシが寝る前に言ってくれればよかったのに」


 僕から事情を聞いたビーラは納得した様子で、汚れた衣服をカゴに入れていた。僕はせっせと雑巾で拭きながら「ごめんなさい……夜、一人で行けないので」と申し訳ないという気持ちを込めて謝った。


 すると、ビーラはカゴを置くと、僕を見て「独りでいると脱衣所の時みたいに具合が悪くなるのか?」と聞いてきた。


「は、はい、まぁ、そうですね」


 僕は動揺しているのを誤魔化すため、雑巾を水の入ったバケツに入れてしぼったりしていた。


「本当にそうなのか?」


 思わぬ一言に、僕はバケツをこぼしてしまった。ビーラは呪文を唱えて、元の状態に戻していた。それがあるなら最初からやってよ。


 しかし、そんな事をツッコんでいる状況ではなかった。ビーラはジッと僕を見ていた。何かを探るように僕の反応を伺っていた。僕は「そうですよ」と平静を装って言った。


「嘘だな」


 だが、跳ね返されてしまった。


「目が泳いでいる。何か隠しているだろ」


 この言葉に僕の心臓は破裂するほど鼓動していた。ビーラは続けて言った。


「前々から思っていたんだけど、一緒に入浴したいとか寝たいとか、最初にそう言われた時はただの甘えん坊だと思っていたんだ。

 けど、一緒に過ごしているうちに何か違うなと思った。

 独りになる事に怯えているみたいに見えるんだよ。

 アタシがトイレに行こうとしてここで待ってろって言った時、お前は何かに怯えたような顔で付いていくと言ったのを覚えてる?」


 そういえば、そんな事もあったな。確かにトイレに行くから待っててって言われた時、僕は必死に「するとこ見ないから独りにしないで!」と言ったのを思い出した。


 ビーラはさすがに引いていたが、最終的には僕は背を向けて、歌を歌いながら待つならいいという条件付きで承諾してくれた。


 僕がコクンと頷くと、ビーラは口を開いた。


「アレはさすがに変だなと思ったよ。

 もしかしたら何か事情があるのかと考えるようになった。

 でも、まだ確信できるような証拠が見つからないまま過ごしていた時、今日の脱衣所でお前がぶっ倒れた。

 それを見て、これは単純な寂しがり屋ではないな確信した。

 なぁ、カース。

 お前は一体何に怯えているんだ?

 どうして独りでいる事がそんなに怖いんだ?」


 彼女が内心溜まっていた思いをぶつけられたが、どう変えしたらいいのか分からず、僕は黙ってしまった。


 気まずい沈黙が流れる中、ビーラはハァと溜め息をついた。


「じゃあ、こうしよう。アタシの過去を教えてあげるから。そうすればおあいこだろ?」


 彼女の提案に僕はすぐにウンとは言えなかった。果たして僕の話を信じてもらえるのだろうか。僕には怨霊が取り憑いていて、独りになると殺そうとしてくるという話を。


 でも、彼女の過去を知る良い機会でもあるし――どうしよう。色々考えながらモジモジしていると、ビーラが突然上着を脱ぎ始めた。


 僕はとっさに視線を逸し、「どうしたんですか?」と聞いた。


「見ろ。浴場で見ているんだから、今更恥ずかしがる事はないだろ」


 強い口調で言われたので、恐る恐る視線を向けた。ビーラは背を向けていた。浴場の時と同じく、隅から隅まで傷跡があった。


 しかし、よく見てみると擦り傷というよりは、歯型みたいなギザギザした深い傷だった。それだけではなく、所々(あざ)みたいな痕もあった。


 僕は痕の事について聞いていいのかどうか分からず、黙り続けてしまったが、ビーラは再び上着を着直しながら話し始めた。


「アタシが大臣になる前、エルーラを守る兵隊に所属していたんだ。

 新米の頃は前線で魔物や人間達を相手に戦っていた。

 ある日、オーク達に捕まった仲間を助けるために隊長とアタシを含めた何名かを連れて、こっそりと奴らの根城に向かった……」


 ここで話を区切り、上着を着た彼女は僕の方を向いた。真剣な眼差しを向けながら話を再開した。


「……けど、罠だった。

 捕虜にされたヤツは裏切り者で、部隊を壊滅させるためにわざと捕まって、アタシ達を誘き寄せたんだ。

 魔物に捕まったアタシ達は、(はりつけ)にされた。

 カニバードって知ってるか?

 頭が蟹で体が鳥の魔物だ。

 オークどもは何十匹ものカニバードを放って、アタシ達を襲わせたんだ。

 奴らの主食は人間とエルフ――カニバードにとってはご馳走が目の前に並んでいるのと同じだ。

 アタシも含め、隊長も仲間もついばまれてしまった。

 奴らは大きな声や音に敏感だった。

 だから、真っ先に悲鳴を上げた仲間が先に喰われた。

 伝言ゲームみたいに連鎖し、次から次へと襲われた。

 でも、奴らの特性を理解していたアタシや隊長は、必死に耐えていた。

 そうすると、オークが混紡で身体を殴り始めたんだ。

 懸命に耐え抜いていた隊長も、遂に我慢できなくなってたった一声の呻きで、あっという間に骨になった。

 最後の独りになったアタシは、オークに散々殴られたり蹴られたりした。

 カニバードにも突かれたりした。

 でも、耐えた。

 耐え続けた。

 最終的には応援が来て、どうにか救出されたけど……その傷痕は未だに残っている。

 身も……心もな。

 帰還したらエルーラのお偉いさんに英雄とか称えられて、いつの間にか隊長に昇進。

 そして、流れるがままに大臣にまで昇格したんだ。

 どうだ? 話す気になったか?」


 急に僕に振ってきたのでビックリした。そして、少し考えた。ビーラがここまで話すという事は、僕の心の内の苦しみを共有したいのかもしれない。


 それ以前に僕だけ話さないのは卑劣にも程がある。僕は何度も深呼吸した後、意を決して打ち明けた。


 自分は前世で、こことは違う世界にいたこと。その時、呪いのビデオというものを見て、幽霊に襲われて、この世界に転生したこと。だけど、その幽霊もこの世界に転生し、僕の命を狙っていること。独りになった瞬間襲われるので、常に誰かといないと安心して生活できないこと。四女のメローナが常に僕の側に居てくれたけど、学園に入学して離れ離れになってしまったこと。このままだと襲われてしまうので、図書室から禁断の魔導書を持ってきて、ビーラを召喚させたこと。


 墓場まで持っていくつもりだった秘密をダークエルフに打ち明けた。ビーラは僕の話を真剣な顔付きで聞いていた。

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