第1章「読み合わせの距離」前編
ご覧いただきありがとうございます!
初投稿です。演劇部で恋人役を演じることになった後輩と先輩の物語です。
ドキドキと青春の距離感を楽しんでいただけたら嬉しいです!
第1章前半「セリフにまぎれた本音」
放課後の部室。
冷え込む空気の中、ストーブの赤い灯りが、小さく唸るように音を立てている。
外では、白い息がふわりと空に溶けていく季節。
それでも部室の窓はうっすらと曇って、冬の静けさを映していた。
部長が配った新しい台本。
それを手に、私の心は静かにざわついていた。
部長「このシーン、こちゃと葵でやってみて」
突然言われた“配役”に、心臓が跳ねる。
葵(心の声):
こちゃ先輩と――恋人役……?
そんなの、ちゃんと演技できるわけないのに……
春から演劇部に入って、もうすぐ1年になる。
台本を読むのにも、動きをつけるのにも慣れてきた。
でも――
こちゃ先輩と向き合うとなると、話は別だった。
こちゃ「……なんか恥ずかしい配役だな。ま、俺はいいけど。なぁ、葵ちゃん」
葵「えっ……は、はいっ!」
先輩と目が合っただけで、うまく息ができなくなる。
いつもは部員たちに囲まれていて、笑ってて、頼もしくて。
そんな先輩とふたりで“恋人役”なんて、近すぎて、どうしていいか分からない。
葵(心の声):
ずっと憧れてた。
いつも舞台の中心にいるこちゃ先輩が、まぶしくて――
隣に立てるようになりたくて、必死に練習してきたのに。
今日、突然訪れたこの距離感に、心が追いつかない。
こちゃ「じゃあ、やってみるか」
そう言って、先輩は台本を持ち上げた。
指先まで自然で、きれいで、やっぱり、ずるいくらいカッコよくて。
私は小さく深呼吸をして、台本を見つめる。
演じるだけ。台詞を言うだけ。
そう思い込もうとしても、
「好き」って言うそのひとことが、台本越しでも喉につかえてしまう。
ストーブの音だけが、部室の静けさを破っていた。
葵(心の声):
ちゃんと演じなきゃ。
ただの“役”なのに――
どうして、先輩の目を見るだけでこんなにドキドキするんだろう……
✨読んでくださってありがとうございます!
先輩と葵ちゃん、演技のはずなのに距離が近づいていく感じ……伝わってたら嬉しいです!
次回は、いよいよ葵の親友綾との会話で、揺れる気持ちがはっきりしてきます。お楽しみに!