黄昏のエゴイスト
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episode3
人間を狩り 踏み潰し 蹂躙する
人間、なぜお前達は弱い?
人間、なぜお前達は声が鳴る?
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乾いた荒野の大地。
この場所に存在するのは、悪魔と人間。
太陽がオレンジの色に変わりゆく時間、チェイサー・ジェネレイドは悪魔と遊んでいた。
『遊ぶ』というのはチェイサーの認識で、客観的に見るならば、それは一方的な悪魔退治だろう。
「ワカッタ──!ワカッタ!! 見逃シテクレ! モウ満足シタ!」
人間の3倍はあろうかという巨体が地面に跪く、
二本の角が生えた牛のような頭部を乾いた地面にめり込ませて。
悪魔の体は黒ずんだ硬い皮膚に覆われ、トゲのような突起物が生えている。
一見すると威圧的な見た目なのだが。
今はただ、無抵抗であることを精一杯に示している。
その姿は夕日に照らされ大きく不気味な影を写す。
「俺は満足してねえぞ」
冷たい声で悪魔を見下ろしながら、チェイサーは返す。
見た目だけは少し圧があったが、この程度ならば戦闘能力は下級の悪魔に等しい。
この程度の実力で楽しめるはずがない。
「頼ム! 頼ムヨ! モウ! 俺ハ何モシネェカラ!!」
地面に頭を擦り付けほざく悪魔。なんと滑稽だ。
あまりに情けない姿を見て、戦闘の意欲は削がれた。
「なら、失せろ」
背中に白銀の大剣 《aroma》を収め、背を向けてチェイサーは歩き出す。
この程度では遊び相手にもならない、なんの興味も無い
無価値だ──
「オマエガナ!!」
突如、悪魔は地面を蹴って上空に飛び上がり、巨体を震わせ咆哮する。
そして── いままでの恨みを晴らすかのように、口を広げ悪魔光を放出する。
紫の光は怒りのイメージで出力を上昇させ、高出力の
波動となり地面を抉る。
巨体の悪魔、バルザが見下ろす地上は、派手な爆風と魔光の爆発によって煙に包まれた。
「コノ鬼棍棒のバルザに勝てるト思ったカ!人間如キガ!」
勝ち誇り勝利を確信する。
が、空中で浮遊するバルザの後方、悪魔狩りのハンターは居た。
その動きは未来を予知していたかのようで、チェイサーには一切の驚きも、快感も無い。
(この程度か──)
ただ、退屈を自覚するだけだ。
「覚えておけ 俺が狩人だ」
空中から重量を伴って降下し、魔光を纏った白の刀身の
大剣で悪魔の首に一閃。
悪魔にチェイサーの声が届く事は無かった。
切られた悪魔は空中で、首と胴体が別れ地上に堕ちる。
ズドン── という音と共に牛のような悪魔の頭部が
地面に転がる。
首から上を失った体も同じく、自らの死を知ったかのように地上に墜落。
砂煙を巻き上げながら、僅かな時間の後に静寂を産む。
そして地面に落ちた胴体、頭部は黒い霧に変わって離散する。
「休んでくれaroma」
悪魔が霧に変わったのを確認して、チェイサーは言う。大剣の刀身から白く眩い光が消え、本来の色である、写るものを反射する白銀へと変わっていく。
軽く仕事終えたチェイサーは夕陽を眺めながら、コートのある内側のポケットからタバコを取り出して口に咥える。
銀色の銃 《ドロシー》のトリガーを引き、銃口から出る淡い炎で火をつける。
上品で程よい苦味と渋みの後に広がる深い旨み。
口内を楽しませた煙を吹き出すと、即座に空気に溶けてゆく。
静かに一服を楽しむそんなとき、次はコートのポケットから響く振動がそれを邪魔をする。
発信源はポケベルと呼ばれる電子機器で、厄介な振動はメッセージの受診を知らせるためのものだ。
タバコを吸いながら、片手でポケベルを取り出す。
手のひらサイズの電子機器にであるがゆえ、液晶画面も
見やすいものではない。
『アクマ シュツゲン オネガイシマス』
メッセージと共に座標が送られる。
相手は一人しかいない。マリブだ。
『リョウカイ』と定型文をボタン一つで送信してポケットにしまい込む。
日没が近づく頃合、タバコもちょうどフィルターに到達していた。
「ねぇチェイサー。また仕事なの?」
いつの間にそこにいたのか、なにかを察した様子で小さな少女が言う。
あらゆる光を反射する銀髪に 疑問を知らないような大きな瞳。
どこか物静かな印象を受けるが、その外見はこの世界ではなく創作物に登場するような格好だった。
フリルやリボンが目立つドレスにふんわりとしたスカート。頭には小さな魔女帽子──
本人が言うには魔法少女というイメージらしいが。
チェイサーには奇抜な仮装にしか認識されていない。
黒を基調とした格好に武器を持つ男、前衛的な奇抜なファッションの少女。
やはり、彼女の存在はチェイサーとの関連性に謎を深める。
「あぁ仕事だ、バイクを頼めるか」
吸い殻入れの箱に用済みのタバコを片付けながら言う。
「はーい」
その言葉と共に、少女の体は光となって消えた。
そして、チェイサーの手に白銀のピストルが具現する。
躊躇いも構えもなく、片手で地面に向かって銃弾を放つ。
着弾した場所から現れる魔法陣。
その中心から浮上するようにバイクが姿を見せる。
最高速度は200キロと標準だが、鋭い印象を与えるボディ。研ぎ澄まされた黒い装甲は適当な魔光は受け付けない。
これが愛用のバイク。名はKatana。
チェイサーは慣れた動作でシートに跨り、ハンドルに
力を込める。持ち主の生体を確認したバイクに魔光の
エネルギーが循環する、エンジンが熱を持ち、マフラーから煙を排出する。
全身に伝わる心地よい振動が心を楽しませる。
そして、エンジンが温まったKatanaは荒野を疾走する。
夕陽を追いかけるようにエンジン音を響かせ、未来に急ぐ。
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目的地に到着した時、辺りは闇に包まれていた。
チェイサーはバイクから降りて、前方を見渡す。
それと同時にKatanaも光の粒子に変わって離散する──
視界に広がるのは無数の木だ、音も風もない森林の奥には夜と同化した闇が覗かせる。
星空は高くそびえ立つ木々に隠され、僅かな月の光だけが差し込む。
この森林を越えた先に悪魔が居るらしいが、この静けさ。
なにが起こるのか、起こらないのか、予想できない。
だが、その事実こそが、好奇心を楽しませる。
1歩、1歩と闇の中に踏み込む。
チェイサー・ジェネレイドは新たなる刺激と戦いを求めて──




