7. ごめんなさい
はっとしたのは、ヴィルがおれを抱き寄せたから。
終わった。ただでさえ嫌われているのに、ヴィルの敬愛する人に当たった。
ヴィルから嫌われる。
「ご、ごめんなさい。もう言わないから、もうしぬから、嫌いに、ならないで。引かないで、ゆっ許して」
必死だ、本当に。
焦る自分と、俯瞰して今の現状を見ている自分がいる。焦る自分は挽回を、俯瞰する自分は諦めを背負って。
「ヴィル、嫌いにならないでよ」
「....俺は、お前のことが嫌いになったことはないぞ」
ばっと顔を上げる。
驚いたように目を丸くしたヴィルに困惑はあれど、嘘は混じっていないように見えた。
「ほんと?」
「...ああ」
それなら、それなら。ひとまずは
「よかったぁ」
「.....ごめんね」
おれがほっと安堵している中で男が話しかけてきた。恨めしくて、そんな感情を表に出さないように笑顔を貼り付けてそちらを見る。
意外にも男は殊勝そうな顔をして、両手を顔の前で合わせていた。
「“ヴィル”って呼んだ瞬間に、この子の背筋が伸びて、瞳孔が開いたから、この子の地雷なのかなって思って、つい」
「ちょっと、待ってください。どういうことですか?」
「じゃあ、見てれば?“ヴィル”」
ぞくりと肌が粟立つ。
「....あ」
やっちゃった。もうしないって言ったのに。
「この子にとって一番嫌なことをしちゃったんだよね、さっき。でも、さっきも今も我慢してるから凄いよね。ヴィ...お前に嫌われたくないんだな」
「そんな事は無いと...」
「見てみな?この子の手のひら」
チラリと見た手には血が滲んでいた。自分でも無意識のうちに、我慢するために握りしめていたようだった。
ほらと言うように男に手を掴まれてヴィルの前まで持っていかれる。ヴィル以外に触られたくなくて体が硬直するけど、ヴィルに嫌われたくなくて安易に振り解けない。
「あ、離してやってください。こいつ、俺以外に触られると最悪泣くんですよね」
「えそうなの?!ごめんね」
すぐに離されてた腕が地面につく前に腕はヴィルに掴まれる。
すぐに治癒の力が使われた。
だめだな、おれ。貴重なヴィルの治癒の力をおれなんかに3回も使わせてしまった。
でも、気遣ってくれたことが何より嬉しい。
「ごめ、ありがとう」
言い切る前にヴィルに抱きしめられた。