5. くるしいなぁ
此奴の顔を見るだけで、暗い嫉妬が湧き出てくる。
その口でヴィルと呼ばないで、その目でヴィルを見ないで。おれのだったのに、おれのだった。
動かない足ではヴィルの元に行けなくて、隣には立てないのに、此奴は容易に隣に行って、おれの許されないところにいる。
しにたい。
ありったけの力でまだ近くにあったヴィルの腕を振り解いて、ぎゅうと自分の首を絞める。
しにたい、しにたい、しにたい。
息を止めて呼吸をせず、目を瞑って周りを映さず、できることなら耳も塞いでしまいたい。
まあ、それでも、ヴィルが目の前にいるから、しぬことは許されなかった。
力を込めすぎて血の滲んだ首元も、腕を握られてしまえばすっと治っていく。
大好きなヴィルの力で、しぬことは許されない。
急に肺に酸素が運ばれてひゅうひゅうと息をする。
おれの突然の行動に、男も戸惑っているようだった。そうだよ、もっと困ればいい。
苦しんで、ヴィルの前から消えてくれ。
「驚いた。急にどうしたの、その子」
「わかりません。お見苦しいものをお見せしました...」
息をするのが苦しい、なんでこんなのを見ないといけないの?
ヴィルが敬語を使うところを初めて見た。それだけ此奴のことを敬っていると言うことだろう。
それならおれは、此奴を睨めないし、敵意なんて向けられない。
ヴィルはおれの全てで、ヴィルの大切にする人はおれも大切にしないといけないから。
苦しいなぁ
拒否と、愛と、ぐちゃぐちゃに混ざり合った笑顔を向ける。
その顔を見てハッとしたような顔をした男は、次に納得したようににんまりと笑った。