表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/8

4. ヴィル

 久しぶりに正面から見たあいつの顔は焦りでいっぱいで、走ってでも来たのか肩で息をしていた。

 おれの方を凝視して、何かを言おうとして口を開け、力なく閉じる。そんなことを繰り返して、はくはくと動かしていた。



「久しぶり、えへへ、治さなくて、良かったのに」



 会えてうれしいのに、こんなことしか言えないおれにウンザリする。

本当に、治してくれなくて良かったけど、あいつのあたたかい力をひさびさに見れて、やっぱりうれしかった。



「話しては、くれないの?」



 黙りこくっているあいつを見て言う。

やっぱり、おれのこと嫌いだから、話したくないのかなぁ。

 だとしたら、ずいぶんと嫌われていたものだ。



「....なんであんなことをした」



 話してくれた。


 それだけでうれしくて顔がみっともなくニヤけてしまう。声が聞けた。うれしい。



「なんでって、しにたくなったからだよ。簡単でしょ?」



 当たり前のことを質問するなんて、あいつらしくないなぁ。同時にこてん、とあざとく首を傾げてみる。



「死にたくなったって、なんで」


「んー、それは黙秘したいなぁ」



 ヴィルはおれのこと嫌いみたいだし、知られて少しでも責任を感じるようなことは嫌だ。そんなふうにあいつの記憶に残るのも嫌だし。

 あとは単純に、思い出したくないから。



「それにしても、ヴィルの治癒はすごいね!あんなに深く切ったのに普通に話せちゃうなんて」


「.....」



 すごい、すごいよね!おれの自慢。



「でも、治さないでほしかったなぁ」


「...お前は、前はそんな奴じゃなかっただろ!」



 滅多に出さない大声を聞いて驚く。それでも何か言おうと思って口を開いた途端に、部屋の扉が開いた。


 その先には先ほどの男が立っていた。


 腰まで伸びたシャンパンゴールドの髪をひとつに括り、エメラルドグリーンの瞳を心底愉快というふうに細めていた。


 ああ、思い出した。此奴は、あいつの隣にいた奴だ。

おれがしのうとしたとき、ヴィルの隣にいた奴。


 会いたくなかった。



「やあ、元気になったようだね!」



 にこりと微笑むとヴィルの方に歩いていく。

不快だ、不快。おれのヴィルを見ないで、おれのヴィルに触らないで、おれのヴィルに近づかないで。


 男を退けたくても、体は動かない。



「ヴィルが助けたいって、珍しいこと言うよね」



 ああ、ほんとうに、此奴には会いたくなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ