4. ヴィル
久しぶりに正面から見たあいつの顔は焦りでいっぱいで、走ってでも来たのか肩で息をしていた。
おれの方を凝視して、何かを言おうとして口を開け、力なく閉じる。そんなことを繰り返して、はくはくと動かしていた。
「久しぶり、えへへ、治さなくて、良かったのに」
会えてうれしいのに、こんなことしか言えないおれにウンザリする。
本当に、治してくれなくて良かったけど、あいつのあたたかい力をひさびさに見れて、やっぱりうれしかった。
「話しては、くれないの?」
黙りこくっているあいつを見て言う。
やっぱり、おれのこと嫌いだから、話したくないのかなぁ。
だとしたら、ずいぶんと嫌われていたものだ。
「....なんであんなことをした」
話してくれた。
それだけでうれしくて顔がみっともなくニヤけてしまう。声が聞けた。うれしい。
「なんでって、しにたくなったからだよ。簡単でしょ?」
当たり前のことを質問するなんて、あいつらしくないなぁ。同時にこてん、とあざとく首を傾げてみる。
「死にたくなったって、なんで」
「んー、それは黙秘したいなぁ」
ヴィルはおれのこと嫌いみたいだし、知られて少しでも責任を感じるようなことは嫌だ。そんなふうにあいつの記憶に残るのも嫌だし。
あとは単純に、思い出したくないから。
「それにしても、ヴィルの治癒はすごいね!あんなに深く切ったのに普通に話せちゃうなんて」
「.....」
すごい、すごいよね!おれの自慢。
「でも、治さないでほしかったなぁ」
「...お前は、前はそんな奴じゃなかっただろ!」
滅多に出さない大声を聞いて驚く。それでも何か言おうと思って口を開いた途端に、部屋の扉が開いた。
その先には先ほどの男が立っていた。
腰まで伸びたシャンパンゴールドの髪をひとつに括り、エメラルドグリーンの瞳を心底愉快というふうに細めていた。
ああ、思い出した。此奴は、あいつの隣にいた奴だ。
おれがしのうとしたとき、ヴィルの隣にいた奴。
会いたくなかった。
「やあ、元気になったようだね!」
にこりと微笑むとヴィルの方に歩いていく。
不快だ、不快。おれのヴィルを見ないで、おれのヴィルに触らないで、おれのヴィルに近づかないで。
男を退けたくても、体は動かない。
「ヴィルが助けたいって、珍しいこと言うよね」
ああ、ほんとうに、此奴には会いたくなかった。