勇者にかけられた呪い
ある呪い師が死んだ。
勇者に呪いをかけて。
呪いをかけられてから勇者は周りの者がどれだけ責務を果たすよう伝えても彼らに耳を貸すことはなくなった。
王が言った。
「そなたには役目がある」
姫が言った。
「平和な世であろうともあなたには役目があります」
勇者はそれらの言葉を無視した。
それを見て民は言った。
「勇者様には勇者様の人生があります」
勇者は民の言葉を受けて苦笑いをして答えた。
「俺もそう思う」
やがて、勇者は死んだ。
王と姫にため息を手向けられながら。
民からは涙を送られながら。
死後。
勇者の下にあの呪い師が現れる。
「情けない。呪い一つ跳ね返せないなんて」
勇者は舌打ちをして答えた。
「呪われたつもりなどない」
「どうだか」
呪い師は呆れた様子で呟く。
「血を残すのも勇者の役目なのに」
「抱きたくもない女を抱くつもりはない」
勇者の脳裏に生前の記憶が蘇る。
『私の事は忘れて』
旅の最中で死に別れた初恋の女性。
彼女の最期の言葉は勇者の心を強く縛る呪いとなった。
少なくとも人々はそう解釈していた。
死後、ようやく再会した女性……呪い師さえも。
「馬鹿丸出しね」
勇者は再び舌打ちをした。
「黙れ、あばずれ」
憎まれ口をたたき合いながらも、勇者は今、ようやく自分にかけられていた呪いから解放されたのを感じていた。