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そうだ 貴族やめよう

琥珀とマーマレード

作者: 瀬嵐しるん

『そうだ 貴族やめよう』のフラビオ側のお話です。

お時間があれば、前作を先に読んでいただくと、多少わかりやすいかと思います。


「マーマレード! わあ、なんて綺麗なの!

ねえ、食べられる琥珀みたいね」


俺の女神は食いしん坊。

だが、男の人生には女神が必要だ。



俺、フラビオ・ガリンドは伯爵家の生まれだ。

次男坊として、いざという時のためにきちんと教育を受け、貴族学園にも通った。


だが、兄とは少々歳が離れている。

俺が学園に在籍している間に、兄嫁が双子の男子を産んだのだ。

おかげで晴れて平民への道が開けた。

友人の中には、婿入り先を紹介しようかと気遣ってくれる奴もいた。

しかし、お断りだ。

俺は平民になりたかったのだから。


そもそも、俺の母は平民だ。実家は裕福な商会。

この国ではもう、金のある商人が貴族に平伏することは無い。

貴族を粗略に扱うことこそ許されないが、馬鹿丁寧に持ち上げることはないのだ。

商売上手な平民と縁を繋ぐのは、時代を見据えている貴族なら当たり前のことになっていた。


そんなわけで、俺は学園に通いながら、放課後や休日は母方の祖父の店で見習いをさせてもらうことにした。

学園のある王都には、祖父の経営する商会の支店がある。

海運も手掛けているため、本店は大きな港町に置かれている。


同じ年頃の従兄弟達は平民向けの学校を出て、すでに働き始めていた。

つまり、先輩であり、師である。


「フラビオ、違うって。積み直して、新しいものを奥に置かないと」


「その品物は、そこに置いちゃダメだ。湿気てしまうよ。

倉庫の中でも風通しのいい場所を探すんだ」


鼻垂れ小僧の時分から、店先で遊んでいた奴等には到底かなわない。

俺の鼻っ柱は完全に折られた。


心のどこかにあった貴族の方が平民より偉いという考えや、剣技で鍛えた体力への自信が、あっけなく砕けた。

俺より背が低く細っこい従弟が、俺がやっと二箱持ち上げた横で、三箱を軽々と持ち上げるのだ。


「……俺って非力なんだな」


従弟は笑う。


「コツがあるんだよ。教えてやる」


「よろしくお願いします」


偉いとか偉くないとか、上だとか下だとか、そんなつまらない考えは、商会の店先や倉庫の中で、どんどん消えて行った。


最終学年になって、いよいよ進路を決定するという時。

ありがたいことに騎士団への推薦も可能だ、と教師に言われた。

もちろん、断った。

俺の知りたいことは、商売の道の先にあると思ったからだ。


卒業から二年間、俺は王都の支店で働かせてもらい、その後、港町の本店に移った。



「お前、船には乗れるか?」


「どうでしょう。乗るのは初めてです」


まずはしばらく、商会長である祖父について歩くよう言われた。

祖父ではあるが雇い主。丁寧に接しなくてはならない。


転勤記念だと、船での買い付けに連れて行ってもらった。

使うのは小回りの利く、瀟洒な船。

この船は半分、祖父の道楽のようなものだ。

小型で、大量の商品を運ぶには向かない。

しかし商談や、ちょっとした海上でのもてなしに活躍するという。


俺は幸い、体質が合うようで船酔いもなかった。


「お前は、船での商売が向いているかもしれん」


不思議と上機嫌な祖父が、船首像を指差す。


「あの女神像を見て、どう思う?」


船首で行く先を見据える女神は、大人の女性には見えなかった。

まるで……そうだ、不安げな少女のよう。

祖父には、正直にそう告げた。


「そうか、不安げな少女か。ふむ。

決めたぞ。わしが引退する時は、この船をお前に譲ってやる」


「はい? 俺はまだ、見習いもいいところですが……」


「早く一人前になって、不安な女神を守ってやれ」


祖父はニヤリと不敵に笑った。



しばらくして祖父の長男である伯父が商会を継ぎ、その下で、俺は船乗りとして扱かれることになる。


更に数年後、会長職と趣味の船便を続けていた祖父が引退した。


「もう儂は疲れた。そろそろ、お前に任せる」


船は俺の所有となり、同時に俺は大商会から独立した。

祖父と共に引退した古参の船乗りもいたが、俺の元に残ってくれた者もいる。

新たに人も雇って、全部で十二人の部下を抱える身となった。


船と共に、海の見える丘の上に立つ広い敷地と屋敷も受け継いだ。

船乗りの修行を始めてからは、俺もここに住まわせてもらっていた。


船と屋敷を譲られて独立したといえば、傍目には相当に幸運に見えるかもしれない。

しかし、船と屋敷はセット。敷地内には乗組員のための寮があるのだ。

乗組員たちの家族もそこに住んでいて、彼等には屋敷の使用人として働いてもらっていた。

命を預かり合う船の仲間を、陸でも家族として扱う。

これは祖父が作った仕組みだ。


『この大家族を飢えさせず、最後まで面倒を見るんだぞ』


遺言のように言いつけた祖父は、まだまだ元気で、自由にあちこちを渡り歩いていた。



伯父が継いだ大商会が持っている船は、どれも大きな輸送船だ。

対して、俺が祖父から譲り受けた船は、美しいが小型。

たくさんの荷物は運べない。

これを使って出来る仕事は、新しい商品探しや、お客の注文品探し。

いくつもの国を巡り、異なるいくつかの言語を操り、たくさんの人と出会い、交渉することが必要だ。


幸いにも、俺は貴族の生まれで、高価な品もある程度見慣れている。

そこをさらに祖父に磨かれて、一応、一人前の目利きという顔をして人に会う。

実際はまだまだ若造。正直、かなりスリリング。


だが、目利きが出来れば、小口の商売でも利益が出せる。

後は、売れそうな珍しい商品を見つけて、伯父の商会に持ち込むのだ。

うまく商売になれば、決まった割合で金が入る。


綱渡りの仕事に、なんとか馴染んできた頃。

隣国の貴族の夜会で、商売の仲介をしてもらえることになった。

自分の船には商品の運搬の予定があり、数日前乗りで俺だけが港に降りることになった。


商売柄、こういう時にいろんな場所を見て回ると、何かしら発見があるので暇を持て余すことはない。

港町から乗合馬車で、噂話を拾いながら内陸に向かった。


王都に着いたのは真夜中近く。

途中で天気が急変し、少し足止めを食らったせいだ。

馬車で一緒になった商人から、明け方まで開いている旨い食堂の場所を教わっておいたのが役に立った。


席に着き、二つ三つ料理をもらって飲んでいると、ふと一人の女性の姿に目が行く。

気になって、お替りを持って来てくれた女将に訊いてみた。


「あの子はね、お兄さんが騎士だったんだけど殉職してしまって。

もう一人のお兄さんも、事故で亡くなったとか。

それで、頑張って後を継いで、家を存続させているんだって。

健気な子だよね。

あんな若い子が、一人で頑張ってるなんて。

街の女の子なら平民でも、もう少し着飾って、人生を楽しんでる年頃だろうにね」


その話に同情心がわいたわけでは、けしてない。

着飾るのが幸せかどうかなんて、他人が決められることではないし。

ただ、励ますのはおこがましいとしても、赤の他人の俺になら愚痴ぐらい言えるのではないか、と思った。


「連れは来ないのだろうか? 俺が同席したら、迷惑かな?」


「女将のあたしに、それをわざわざ訊くような人なら、なんか安心な気がするよ。

声かけてみたらいいんじゃないかい?」


彼女はどこか、あの女神像に似ているような気がした。

きっと、そのせいだ。自分でも驚くほど強引に、相席を申し出た。



最初は胡乱気な目で見られたが、店の中には他人の視線が多い。

滅多なことはないだろうと思ってもらえたらしい。


聞き手に徹して相槌を打っていると、かなりな事情をぶっちゃけられた。

そして、この店に来る直前に婚約解消したことも。


彼女は酒に強いが、酔っていないわけではない。

つまりは酔っ払いが二人、彼女の身の上話を中心に、時々脱線しながら飲み続けた。


気付けば夜が明けかけていた。

さすがに店じまいが始まる。


「寝るだけでよければ、うちに来る?」


昨夜が初対面の若い女性に、そう聞かれてドキリとしない男はいないだろう。

だが、俺の心臓は大丈夫。

身の上話に何度も登場した執事、彼女が爺やと呼ぶ御仁がしっかり留守を守っているらしい。

たとえ、彼に追い返されるとしても、玄関まで送るのは咎められるまい。



通りを歩き始めれば、ちょうど夜から朝へと、空の色が刻々と変わっていく時間帯だ。

ふと立ち止まった彼女が、夜明けの海を見てみたいのだと言った。


「……俺の家は海の見える丘の上にある。

朝日は山側から昇るが、夕日は海に落ちる。

落ちた後の、少しずつ青に返る空の色は見飽きることがないな」


「……詩人ね」


あの景色の美しさを伝えきれないもどかしさ。

けれど彼女は、心の中にその情景を浮かべてくれたのだろう。



彼女の家に着き、まったく何でもないことのように爺やさんに迎え入れられた。

主従の信頼も篤いのだろうが、少しは対人スキルを磨いた俺にはわかる。

爺やさんは、かなりの手練れ。

俺が大して害のない男だと看破されただけだ。


もしも、彼女が一人暮らしだったなら、俺はそこまで図々しくなれなかった気がする。

だが、爺やさんがいることで、かえって気が大きくなった。

思ったことは口に出してしまおう。

駄目なら爺やさんが、きっと止めてくれる。

いい大人のくせに、甘えたのだ。


一眠りさせてもらった後、俺は名と身分を明かし、仕事で出席する夜会のパートナーを彼女に頼んだ。

なんと承諾の返事をくれた上に、もう一泊して行けと言う。

爺やさんも勧めてくれたので、お言葉に甘えることにした。

ついでに、ドレス一式を贈るからと、爺やさんにサイズ確認をしておくのも忘れない。



正直、初めて女性にドレスを贈ったのだ。

驚くほど気が大きくなっていた俺は、自分の好み通りのドレスを買った。

夜会当日、想像以上に彼女は美しく、俺は恋を自覚した。


「……メイドの仕事にでも就ければ」


ダンスの後、テラスで彼女が語ってくれた。

婚約解消に伴い、今後を考えて貴族籍から抜ける決心をしたこと。


諸々が片付いた後は、働きに出るのだと言う。

しかも、貴族の女性が平民として働くというのに悲壮感がまるでない。

不安はあるだろうが、新しい世界に旅立つ喜びも感じているように見えた。


「もし、国を離れてもいいなら、俺のところで働かないか?」


このチャンスを逃すほど、俺は馬鹿じゃない。


「海の側の家のメイドなら、日暮れの海が見られるわね」


「綺麗だから是非、見にお出で。

まずは一度、お客として遊びに来ればいい」


「嬉しい! 行ってみたいわ」


まずは彼女と約束。

その後、爺やさんに連絡を取って、自分の腹積もりをぶっちゃけた。

もちろん、資産や生活の状況、一切合切も。



「私は、お嬢様の幸福を見届ける責任を負っておりますからな」


一年後、俺の屋敷に来た彼女に、爺やさんもついて来た。

すでに主従関係ではない二人だが、彼女にとっては大事な家族。

彼のことは、妻の執事としてスカウトした。


そう、彼女、エルシリアには着いた夜、すぐにプロポーズしたのだ。

承諾をもらったが、ここが人生の頂点ではない。

始まりにすぎないのだ。

ここから、彼女を幸福にしなくてはいけないのだから。



「ねえ、あの斜面のオレンジ、色が特別濃くて美味しそう!」


新婚旅行半分、新しいお宝さがし半分の船旅の最中。

彼女が指さしたのは、オレンジ畑。


エルシリアは食いしん坊だ。

そして、美味いものに目ざとい。

俺は早速、交渉に入ることにした。


「突然で申し訳ないんですが、オレンジを一個分けてもらえませんか?」


「ああ、ちょうど今から収穫するところです。

そうだ。時間があったら、収穫を少し手伝ってくれませんか?

お礼にオレンジを差し上げましょう」


「いいんですか? では、お言葉に甘えて」


初老の農園主夫婦に話しかけると、快諾してもらえた。

エルシリアは喜んで、腕まくりをする。



「本当に助かりました。こんなに手伝ってくれてありがたい」


夕方まで手伝い、オレンジを二ダースももらった。


「それから、これは昨年の残りですが」


「まあ、ありがとうございます。

マーマレード! わあ、なんて綺麗なの!

ねえ、食べられる琥珀みたいね」


「……ああ、本当だな」


宝石では、ここまで喜んでくれない妻だ。思わず苦笑いが出た。


小さな農園で大切に育てられたオレンジは、量が少ないが味が濃くて特別美味しい。

それで作られたマーマレードしかり。



「あのオレンジ農園、跡継ぎがいないのよね」


翌年、再びオレンジ農園に手伝いに行ったのは妻だけ。

俺は仕事で、送り迎えだけだ。

エルシリアはマーマレードづくりを習ったようで、迎えに行くと、ドヤ顔で瓶を差し出してきた。

そして、たっぷりと世間話もしてきたようだった。



更に翌年、妻は妊娠し、手伝いに行けそうもなかった。

そんな彼女が相談を持ち掛けてきた。


「あのオレンジ農園に、手伝いの若い人を派遣することは出来ないかしら?」


「君はほんとうに、あそこのオレンジが好きなんだな」


「もちろんよ。あの農園、継ぐ人が居なくて、今のご夫婦が辞めたら終わってしまうでしょう?」


最近は、手間のかからない改良品種を選ぶ農園が多い。

十分美味しい品種だが、あの濃いオレンジの味を知った後では物足りない。


「もし、農園のご夫婦が嫌でなければ、誰かに継いでもらえるよう、お手伝いできないかしら?」


「それを俺に頼みたいんだな?」


「ええ。面倒かもしれないけれど」


「そんなもの、朝飯前に決まってるだろう」


「あなた! 大好き!」


食べ物がかかると、妻は気前よくキスしてくれる。



しばらく後、久しぶりに祖父が訪ねて来たので、オレンジ農園の話をした。


「儂に当てがあるから、任せておけ」


と胸を叩くので、オレンジ農園に紹介状を書いた。


子供が生まれ、ひと段落するまで二年。

久しぶりに訪ねた農園は、すっかり様変わりしていた。


「思っていたのと違ったわ」


エルシリアは、アハハと笑う。


オレンジ農園には人が増えていた。

しかし、平均年齢が高い。


「あー、フラビオ坊ちゃん、お久しぶりですねえ」


知った顔もチラホラある。



「ほら、この辺り、空いてる土地もあったからな、買い上げて老人ホームを作ったんじゃよ」


祖父は、農園に興味がある者はいないかと、知り合いに声をかけたのだ。

その結果、身体が動く限り仕事をしたいという、やや高齢の希望者が集まった。


「商会長! じゃなかった、代表! 俺たちは現役バリバリですよ」


「わかったわかった。棺桶に入るまで、現役でこき使ってやるよ!」


「相変わらず人使いが荒いですね」


「うるせえ。文句を言う暇に、働け」


「へいへい」


祖父がすっかりオレンジ農園を掌握したので、それからは収穫の季節、妻と娘をそこへ預けることにした。

農園主夫妻は、自分たちより年上なくせに無駄に元気な老人どもを見て、ずいぶん勇気づけられたらしい。


農園の方は十分に人手があるので、エルシリアの爺やさんには屋敷の方を頼むことにした。

船乗りの家族たちの中には、使用人としてきちんとした教育を望むものもいる。将来の執事候補を、爺やさんは熱心に仕込んでくれていた。



「あなた、今年のマーマレードも美味しく出来たわ!」


仕事が一段落し、オレンジ農園に向かうと、すっかり大人の女性の貫禄を纏った妻が迎えてくれる。


初めて会った時、彼女はまるで無垢な少女のようだった。

不安を抱えながら、一人で船出しようとしていた。

俺はただ、一人で行かせたくはなくて、少しでも力になれるならばと声をかけたんだ。


だが今では、彼女は灯台のように俺を導く。



おとおしゃん(お父さん)おえんじ(オレンジ)あまあま(甘くて)しゅっぱ(酸っぱい)!」


マーマレードの瓶を詰めてあるらしい、大きな籠を下げた妻。

空いた手は、小さな娘としっかりつないでいる。

娘の手には、オレンジが二つくらいしか入らない、小さな籠。

大小二人の女神のお出迎えとは贅沢なことだ。


「おえんじわぁ、あまあま、しゅっぱ、おおもおけ!」


ピョンピョン跳ねるように歩きながら、オリジナルの歌を口ずさむ小さな娘。


「素敵な歌だが、誰だ? アナに、大儲けなんて言葉を教えたのは?」


「あなた、お金は大事よ。

アナが大人のレディになった時、もしも頼る人が居なくても、財産で生き延びられるかもしれないのだから。

わたしみたいに幸運に恵まれて、素敵な海賊王子に出会えるなんて、滅多にないことなのよ」


「エルシリア……」


「アナや、お父さんとお母さんはラブラブなようじゃ。

じいじと一緒に、向こうで遊ぼうかの?」


通りかかった祖父が割って入る。


「あまあまおえんじ、しゅっぱおえんじ、ちぇんべちゅる(選別する)


「お前さん、甘いオレンジと酸っぱいオレンジを選別する能力、どっから貰って来たんだね?」


祖父の話では、アナは見事なほど、オレンジの選別を間違わない。

間違いなく、エルシリアの血だ。

食いしん坊の血。



食いしん坊で思い出した。


「アナ、お土産のお菓子があるよ。一緒に食べないか?」


大人しい良い子の顔をしていた娘が、キラキラした笑顔になった。

どうやら、ずいぶん気を遣わせてしまっていたようだ。


たべゆ(食べる)!」


「おいで」


腕の中に飛び込んでくる可愛い娘。

彼女の前に海賊か王子が現れるまでは、俺が守らないとな。



「おとおしゃんわ、まあまえど(マーマレード)こはく(琥珀)、どっちしゅき(好き)?」


アナから可愛い質問を受けた。

マーマレードをブランド化するために、祖父が持って来た琥珀を見たのだと、妻が教えてくれる。


「うーん、難しい問題だな……どっちも好き、かな?」


「どっちも?」


「アナと、アナのお母さん、どっちも好きなのと同じことだ」


「アナのこと、おかあしゃん(お母さん)とおんなじにしゅき?」


「もちろん」


「うふふぅ」


「よかったね、アナ。嬉しいね」


「うん。アナも、おとおしゃんも、おかあしゃんも、どっちもしゅき!」


「お母さんも、どっちも好き」


マーマレードと琥珀。

どちらかがより好きでもいい、同じくらいどっちも好きでもいい。

君がしっかり選べばいい。



アナ、いつか君と語り合いたい。

世の中は、人の数だけ価値観があり、正解も不正解も無いんだ。


少しずつ君が世界を知って行って、いつか君だけの価値観を持って欲しい。

そして、理解し合えなくても、違う価値観の相手のことも認められるようになって欲しい。



その夜、アナが眠った後で、エルシリアにそんな話をした。


「わたしはやっぱり、マーマレードかな?」


俺の膝の上の妻は、真面目な顔で言う。


「君は、それでいい」


そしてずっと、俺の腕の中にいてくれれば、それでいい。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 先の話も素敵でしたが、 こちらの甘々多めの可愛さ増し増し話も素敵でした! それこそ、煮詰めたマーマレードみたいに甘いとろみと 爽やかさのマッチング!絶妙! そして じい様連中が生き生きし…
[一言] 何となくヒーロー目線のお話しの方が好き ヒロイン側の話しも勿論良かったのですが。   多分あれだ小さなお姫様に持っていかれた 可愛いんだもの 舌っ足らずに殺られた  ( ´∀`)bグッ!
[一言] こちらの話しを、先に読んだ方が良いかもしれない。
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