288話
死神は少しずつ違和感を感じ始めていた。
まだ支障は全くないが、体の動きに違和感を覚え始めていた。
もしこれが、本当の自分の体であったら支障が出ていたかもしれない。
しかし、今の体は小さい。
そのためにベリアルからの攻撃は最小限の動作でこなせる。
更に、この体は上下にも動くことが可能だ。
その利点があるからこそ支障は全然なかった。
ただ、この違和感をどうにかしない事にはやがてこの体でも支障を感じ出す可能性が高い。
だからこそ、早くその原因を探りたい所ではあるが、心当たりは全くない。
◆
ベリアルの動きは単調な殴る、蹴るの動作だけだ。
それはこの世界に自分の痕跡を残さないため。
単調な動作ではあるが、その威力は人の体で出せるものではない。
闇を司る大天使であるがために闇の深淵から力を取りだし自らの糧とする。
闇の天使は誰もが出来る技である。
このベリアルが大天使となれた1つの要因にこの技の効率が突出して高いというものがある。
つまり、より長い間高出力を出し続けられるということだ。
そのため持久戦に持ち込むというのもあまり褒められた戦術ではない。
そして、体の違和感もあるのだから余計に取るべき戦術ではない。
かといって決めてがないのも事実である。
あるにはあるが、この世界が終わるか、カイが死ぬ可能性が高くなる。
これは会ったことのない恩人への恩返しなのだ。
その恩人の教え子を殺したくはない。
どうしようもない板挟みな状態に時間は徐々に徐々に経っていった。
◆
その頃、後方ではその様子を静かに、願うように見ていた。
精霊王はその傍ら、密かにとある準備をしていた。
最悪の展開を想像し、動いていた。
それは、神から託された世界を守るという使命。
それを果たすための最終手段。
自分が生まれた意味を示すための戦いに向けて着々と準備を整えていた。