286話
死神の鎌は何度も虚空を切る。
それはベリアルが自分の体でないはずなのに軽快な身のこなしで避けているためである。
ベリアルの適応力には呆れるばかりである。
それは、体を乗り換え普通に制御出来る死神が言えることではないのだが、相手にしないと実感出来ないものである。
彼は元の世界でもベリアルとは戦ったことがある。
しかし、今はその天使ベリアルの体ではなくカイの体である。
何が出来て何が出来ないのか。
更にこの世界の耐えられる力という制限もあるため、ほとんど戦ったことがない相手と戦っているという感覚に近い。
ベリアルはこの世界に痕跡を残さないためかほとんど話さない。
しかし、口角は徐々に上がってきていた。
◆
「すごいことになっちゃったね」
のほほんと楽観的な事を言っているのはこの世界の神である。
そして、その横にはなぜか僕の体から切り離された自我(精神)がいる。
自我が完全に切り離される前から切り離した自我はここに来ていた。
もちろん僕が意図的にしたことではない。
そして、自我がこちらに集まりながら事の次第を聞いていたためある程度の経緯は理解した。
「そんな楽観的で良いんですか?」
「言わなかったっけ?ため口で良いよ」
レクスと同じような事を言う神様にもしかするとレクスは神様の生まれ変わりなのではないかと考えてしまう。
隣に神様が生きているためあり得ない話なのはわかっている。
「質問の答えだけど、僕が干渉するにはそれなりの手段を取らないといけないんだよ。
それに最近他の2つの世界と連結したばかりなのは話ただろう。
それでこの世界が壊されなくなったのは良いんだけど、その分僕が干渉する時に他の世界の神にも許可を取らないといけなくてね。それでさらに時間がかかるから今から準備したところで手遅れなんだよ」
「じゃあ、この世界は・・・・・・」
最悪の未来を想像してしまう。
「死神にかけるしかないね。正確にはもう1つありはするけど。
僕としては、君にベリアルを追い出して貰うつもりだったんだけどね。
ベリアルからの加護を受けている分君の体は他よりも強いからね。
まあ、体を乗っ取られてしまったからしょうがないけどね」
「ごめんなさい」
普段優しい人に怒られている気分だ。
「別に責めてはいないさ。死神、まあ実際には神ではないんだけど、神と同等の力を持っているのが協力してくれることになったからね」