281話
「それもこの世界にとっては少ない犠牲で済むことになるのだから良いことなのかもしれない。
僕も上に立つものとしてそちらを選択すべきなんだろうけど、僕はまだ王に成り立ての若造だ。
だから、ここに来た。まあ、死神がいてこその作戦なんだけどね」
少しの間沈黙が場を制す。
その沈黙を破ったのはレクスだった。
「結局死神は何故戦っているのだ?」
沈黙の間、彼はその事を考えていた。
カイが死ぬからといって死神には何の影響もないはずである。
「それは恩返しだろうね。こっちも経緯から話そうか。
この世界に魔族が生まれた時の話は知ってるかい?」
「小さき天使の1人が爆発したっていう」
「そう、正確には小さき天使の1つの体が爆発した原因、それはこの世界を見張っていた天使にある。
まず、小さき天使は2つの体を持った1人だと考えて欲しい。
その2つの体には特別な回路が存在し、あらゆることを共有する。
それを天使の介入によって崩された。それによって小さき天使の2つの体にはそれぞれに自我を持つのは時間の問題であり、後は人間たちを唆せば片方だけを爆発させることが出来る。
その爆発してエネルギー切れを起こした小さき天使の体に死神を入れて封印すれば完璧という算段だったらしい」
精霊王はどこから確信を持って言っているのか分からないが、その話の中に疑問点があった。
「何故天使は小さき天使の体に入れるという面倒くさいことをしたのでしょうか?」
先程、体を入れ換えていたため入れるということに違和感は自然と覚えなかった。
しかし、聞いた限りすごく手間がかかっているように思える。
それなら、力を持たない小さな動物等に入れたら良いのではないかと思えた。
「死神の力を完全に封印するためにはそれを閉じ込めるだけのスペックを持っていないといけないと考えたらしい。ただ、天使の誤算は死神がそのエネルギー切れの小さき天使の体を動かせたことだろうね。
天使は死神を入れて一安心してこの世界の中を見ることを辞めてただ、死神が出てこないのかだけを見張ってたらしいよ。その隙に死神は2つの体を移っていった。僕の先代だったりエルフの前族長だったりね。
そして、天使がそれに気がついて念のために送り出されたのが、カイって訳だ。
リーセスに関してはたまたまなんだけどね。
カイの役割の1つはさっきも言った通りこの世界を終末に導くこと。
もう1つは死神を止めることだ。だから、異様に死神にこだわってただろう?」