272話
目の前の階段を登り扉の前で立ち止まる。
これが、最後の確認である。
皆に目配せをするが、全員覚悟を決めているようである。
それを確認し、再度扉の方を向くと勝手にその扉が音をたてながら開いた。
開いた先には初めて見る魔族の姿。
体色が灰色な点と2つの角を除けば後は人間と同じような姿である。
「よく来たな」
見渡す限り魔族は1人しかいない。
その1人から発せられた歓迎の言葉。
おそらく、魔王なのだろうその魔族は豪華そうな椅子から立ち上がる。
油断せず、魔王に警戒しつつ部屋の全容を見る。
豪華そうな椅子以外はそこまで装飾がなく殺風景な部屋だ。
強いていうなら窓の縁に少し模様がある程度。
おそらく以前この大陸に住んでいた人間が作った城を利用しているのだろう。
いや、もとはといえばその住んでいた人間が魔族になったのだから使っていて当然である。
魔族の事はよく知らないが、魔族となったことで価値観が変わったりしたのだろう。
おそらく、昔はもう少し装飾をされていたのではないだろうか。
この城内を汚いとは思わないが、暗く廃墟のように感じるのはそのためだろう。
◆
「・・・・・・話す気はない、か。どこからでもかかってくると良い」
魔王はそう言いながら身構えるが、その所作はどこかぎこちない。
影武者かなにかだろうか、と思えるほどに。
でも、だからこそどうするか迷ってしまい行動に移せない。
もし、影武者であるのならば情報を聞き出すために倒さないようにした方が良い。
しかし、本当に魔王であった場合、手を抜こうとして手痛い反撃を食らう可能性も考えられた。
◆
誰も動かないまま少し経つ。
その時、カイにとっては懐かしい姿が魔王の前に現れる。
後ろ姿であるが、もうこの世にいないはずのソラの姿である。
いや、ソラと瓜二つの小さき天使である。
精霊のような小さな体に見合わぬ大きな鎌を魔王に向かって放つ。
それは魔王の首筋に抵抗なく入り、即座に魔王の首が舞った。
その瞬間、真っ赤な血が首から吹き出し、小さき天使にかかる。
その血のかかった小さき天使は振り向き、狂ったように笑い始めるのだった。