270話
王城のレクスの部屋には何か悟った様子のローゼとすごく緊張した面持ちのレクスがいた。
「魔の大陸に行きたいんでしょ?」
魔の大陸というのは魔族の住むこの大陸と同程度の大きさの大陸である。
死神の件については上層部の内の上層部のみが知っているのだが、その一人がローゼだった。
次期王妃ということでその情報を話しておくべきであると考えられたのである。
「ああ・・・・・・ダメか?」
レクスがローゼに許可してもらいたかったのはまさにローゼの言った通りであった。
そんなレクスの答えにローゼは目を閉じ下を向く。
そのまま数秒動かず、その場は緊張した雰囲気が流れる。
「・・・・・・行ってらっしゃい」
ローゼは言いながらも本心とは違うことを言っていると自覚している。
当然レクスにはそんな危険きわまりない場所に行ってほしくないし、自分の立場を分かってないのかという話である。
でも、それが結果的にこの国のためになるのだったらこの国の歴史上でも偉大な王として歴史に名を残すだろう。
もちろん、レクスがそれ目当てならば止めるのだが、そうではない。
レクスの動機はこの国、いやこの世界を救おうという考えである。
しかし、やはり忘れてはいけないのがレクスの立場である。
「でも、私よりも伝えるべき方々がいらっしゃるでしょ?」
「その点については大丈夫だ。父上にも母上にも既に許可を得ている」
「私が最後?・・・・・・私はラスボスではないわよ!」
ローゼが言葉の通りに怒ったのか、はたまた自分よりも先に話している人がいたことへの嫉妬か、レクスの気を引き締めるためか。それはローゼにしか分からない。
◆
ノインはカリアの家に泊まっていた。
最近、ミリアは二人の邪魔にならないようにと一人暮らしを始めたらしい。
カリアは一緒にいるとどうしても世話を焼いてしまうから、一人暮らしをして自立してもらいたい。
そして、自分も妹離れしようと考えていた。
相変わらずの狭い家のため必然的にずっとノインとカリアは近くにいた。
それが当たり前になっており今度は彼氏離れ出来なそうだと思うカリア。
そんなカリアにノインの言葉は酷であった。
「俺も行くことにするよ」
それだけでどこに行くと言っているのか理解出来た。
「人間の生は短いんだから、わざわざ死にに行くようなことをしなくても良くない?」
優しく説得するように話すカリアであるが、内心ではすごく焦っていた。
ただでさえ寿命でノインの方が先に死んでしまう可能性が高いのだ。
それを早めるような真似をしてほしくなかった。
「カリアなら他にいい人が見つかるよ」
ノインの目は少し充血している。
涙こそ流していないが、涙をこらえているのはすぐにわかった。
「そんなこと言わないで!私はここで待ってるから。絶対に迎えに来てね」
その言葉にノインの目からこらえきれなかった涙が溢れだしていた。